2024マイベスト本ランキング
2024年の個人的ベスト本をランキング形式で紹介しようと思う。
ちなみに私の2024年の読了本数は、45冊(+今読んでる1、2冊)だった。
なんか、少ない!読書への熱量はわりとあった1年だったような気がするのだが、思いのほか少なかった。
とはいえ、今年は、個人的にも世間的にも、本や小説に関する熱い思い出がいくつかあった。
1つ目は、何といっても韓国の作家ハン・ガンさんがノーベル文学賞を受賞したこと。私は昨年あたりから韓国文学に激ハマりしていた。そんななか、ノーベル文学賞の発表をリアルタイムで見て、思わず泣き出してしまい、家族に何事かと思われた。ハン・ガンさんが文学で描き出した並々ならぬ想いを知っている人は、きっと皆涙したのではないかと思う。
2つ目は、これは個人的な思い出だが、春に3か月ほど東京で仕事の研修を受けていたため、神保町に何度も足を運ぶ機会があったこと。
神保町、本好きにとって楽園すぎる。カフェ好きにもカレー好きにも楽園であり、そのすべての属性に当てはまる私にとっては、まさに常世の楽園であった。韓国文学書店チェッコリで本を買い、そのままカフェで読み始め、おなかがすいたらカレーを食べる・・・という至高のルーティンは、今思い出しても悶えるほど素敵な思い出だった。
さて、そんな2024年、私が読んだ本の中で勝手にランキングをつけさせていただき、マイベストの5位~1位を発表しようと思う。
5位 『プロジェクト・へイル・メアリー』アンディ・ウィアー著、小野田和子訳
本好きの間では超話題沸騰、現代宇宙SF最高傑作との呼び声高い長編小説である。
いや、作者の頭の中どうなってるん??天才とかもはやそういうレベルじゃないよ??
以下、ネタバレはないつもりだが、何の事前情報も入れずに読む方が良い作品とは言われているので、未読の方は微妙~に注意してほしい。
人類滅亡の危機を救うため、遠い宇宙へ乗り出す主人公・・・という始まりだけ聞くとなんかありがちだが、とんでもない。もう壮大だし驚きの展開の連続だし構成は緻密だし、凄まじく面白い。読んでいる間は完全に思考が宇宙へ飛び、没入感がすごい。私は科学の知識に乏しいが、驚きの展開の連続なのにきちんと科学に裏打ちされており(もちろん現実的ではないのだろうが)、この宇宙の真理を発見したような気分になる。
あまり詳細は書けないが、主人公が旅の途中で出会う“相棒”とのコミュニケーションが最&高である。こんなバディもの今まであったか?いや、ない。
映像化もされると聞いているので、楽しみなような怖いような・・・とにかく全人類におすすめできる本である。
4位 『少年が来る』ハン・ガン著、井出俊作訳
ノーベル文学賞を受賞したハン・ガンさんが、韓国・光州で1980年に起きた民主化抗争・弾圧事件(光州事件)を描いた作品である。
この作品は、ランキングなんて軽薄なものに載せるのが畏れ多いが、かといって言及しないのも不自然であるため、ここに載せようと思う。
フィクションではあるものの、実際の事件を、ハン・ガンさんが膨大な資料や取材をもとに、魂を込めて書き上げた作品である。
それほど遠くはない昔に、韓国で、民衆の命や尊厳がいとも簡単に捻りつぶされて、その悲痛な声すらも握りつぶされた、その現実に衝撃を受ける。ハン・ガンさんは、その捻りつぶされたひとつひとつの魂に切に向き合い、その声を丁寧に拾い上げている。
この作品が世に届けられることだけでも、ノーベル文学賞の価値は十分すぎるほどあるのではないかと思う。
非常に凄惨な事件を取り扱っているため、胸に重いものが残ることは間違いないが、隣国の韓国の歴史と今に続くもの、そこで生きる人々の想いを感じ取ってほしい。
3位 『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』品田遊著
ある日突然、人類を滅ぼす力を持った魔王が降臨し、魔王が10人の人間を集め、「人類は滅亡すべきか」を話し合わせるという設定のもと、進行する物語。
物語とは書いたが、ほぼ小説ではなく、10人の人間の哲学的な議論がつづられる本である。文体は非常にライトでポップなので読みやすい。
「反出生主義」=人間は生まれてこない方がいい、あらゆる不幸の源泉がこの世に生を受けることだから・・・という言説に妙に納得してしまう自分は、ネガティブだろうか。ただ、この本は単に「反出生主義」に説得力を与えるものではなく、10人の人間のいろんな考えや立場がグラデーションを持って語られる。そのたびに、読んでいる自分自身も納得したり、反発したり、意味を咀嚼しかねたり、なかなか思考が忙しい本である。
もちろん、こんな超弩級の問いに答えが出るはずもないのだが、少しでも生きることへの疑問を感じてしまう人は、読んだら妙なヒーリング効果があるのではないかと思う。私自身も何だか救われた1冊である。
2位 『わたしたちが光の速さで進めないなら』キム・チョヨプ著、カン・バンファ、ユン・ジヨン訳
韓国の若手ホープSF作家、キム・チョヨプさんの短編集。
この本を読んだ人は皆、キム・チョヨプさんが大好きになるに違いない。
切なく愛おしい、繊細で美しい、幻想的なのに温かみがある、こんなSFがあったんだ、と新たな金脈を発見した気分である。
短編はいずれも宇宙や近未来を舞台としながら、描かれるのは「自分ならざる者」への愛と理解であるように感じる。遠い世界に連れていかれるような不思議な力があるのに、近いところにある大切なものに気づかされる、そんな作品である。
2作目である『この世界からは出ていくけれど』も同じくSF短編集であり、こちらも素晴らしかった。
これからも作品を読んでいきたい!と強く感じる作家さんに出会えたことが、とても幸せである。
1位 『ロ・ギワンに会った』 チョ・ヘジン著、浅田絵美訳
読み終えた瞬間、「素晴らしい韓国文学にまた出会ってしまった!!」と感動に打ちひしがれた作品。
大切な人を傷つけてしまったことに打ちのめされた主人公が、とあるきっかけでロ・ギワンという脱北者の青年の手記を読む。彼の過酷な旅路とその孤独さに心を打たれた主人公は、自分もその足跡をたどって、ベルギー・ブリュッセルへ赴くという物語である。
孤独で静かな旅の物語でもあり、孤独ななかに大切な人への想いを再認識する、再生の物語でもある。旅の過程は繊細な情景描写とともに進行し、上質な海外の映画を見ているような気分にもなる。
手記を読むことで、直接は知りえない青年に強く思いを共鳴する、という過程が、読書に似ているなとも感じる。
主人公もロ・ギワンも、とうてい自分の中で抱えきれない重い感情を孤独に抱きながら、それが思いがけず他人と共鳴するさまが、胸を打ち、心が浄化されるような、素晴らしい読書体験だった。
素晴らしい韓国文学にはたくさん出会ったが、稀有な読書体験を与えてくれたこの作品を1位とさせていただきたい。
あらためてランキングを見返すと、5作中3作が韓国文学であり、私が韓国文学にドハマりしていたことがうかがえる。今読んでいる作品も、韓国と日本の作家さんの共演アンソロジーであり、しばらくは韓国文学ブームが続きそうである。
また、世間的にも、韓国文学が徐々に広がりを見せ、ハン・ガンさんのノーベル文学賞受賞をきっかけにますます盛り上がっていくのではないかと期待している。実際、書店での韓国文学の取り扱いは爆増した。特に、ハン・ガンさんは特集棚が組まれていることも多いので、ぜひチェックしてほしい。
素晴らしい作品にたくさん出会えて大満足の1年だった。