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創作超短編:フラワーテイル*8 手向け

ザザーン…

ザザーン…

潮騒の音が響く。

この南海岸は遠浅がずっと続いている。

空と海の青が混ざりあう水平線に太陽が重なると、水面がきらきらと輝いて美しい夕景が広がる。

ここは有名な景勝地で休日は人でごった返すけど、たまに沖合いから運ばれてくる人たちがいる。

それは夏は暑い砂浜に、冬は冷たい波しぶきに当たって、まるで哀しみや儚さをもの語っているようにも見える。

今日も左端の海岸線近くにたどり着いた。

…おかえりなさい。

いつもみんな静かにうつ伏せていて顔は見えない。

この人は背格好も華奢で服も着たままだ。
けれどあまり傷もなく身綺麗に見える。
髪は短く切り揃えられている。

…どうして、ここへ?

沈黙しか返ってこないけれど、たまに問いかけたい気持ちになる。

「あ、ほら、手向けの花のところに。早く」

道路沿いから、掛け声とともに数人駆け寄ってきた。

潮の流れのせいか、よく私のそばにたどり着く。それでいつしか【手向けの花】と呼ばれるようになったのだ。

「救急車と警察呼んで、早く」
「布もかけてあげましょう」
「最近こういうことありますね。本当に哀しい…」

人々は布をかけて、目をそらしながらポツポツと話している。

顔も名も知らない人が、はるばるここへ流れてくる。
そして知らない人が、知らない誰かのために少しだけ気持ちを傾ける。

きっとまた、こういうことがあるんだろう。

***

私は風で遠くから運ばれてきて、偶然ここに咲いた。

まさか海辺で咲くとは思わなかったけど、
思えば私の役目みたいなものを感じる。

遠くから流れてきた人を弔うという、花の一役。

いつの頃か、海沿いの町に住む人たちは黄色や白い花を持ち寄り、海に投げ入れて手を合わせるようになった。

どうやらこれは人の祈りや願いを託すといった行いのようだ。

***

今日はとてもよく晴れて夜空が綺麗に映る。
安住の地へ無事に帰れるよう、
私も手向けの花として、満天の星とともに天へ祈ろう。


そして…

願わくば、私が必要でなくなるときが来ますように。

* * *
  終

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