ワンタンメン、タンメン、タンタンメン
ワンタンメンタンメンタンタンメン
正直、何事かと思う。
ただ、ラーメンの種類を句読点を打たずに並べただけなのだが、異世界の扉を開けたような不気味な言葉を書き連ねたように感じる。何かの呪文のようにも思えるし、楽しげなタップダンスのステップのようにも思えてくる。横一列に並べられた文字を見ていると、ゲシュタルト崩壊が起きそうだ。
もしや、ひらがなにしたら、そんな崩壊は免れるかもしれないと思い、
わんたんめんたんめんたんたんめん
と書いてみたものの、何か、ラーメンだけではなく、明太子まで紛れ込んできたように感じて、さらなる混乱を呼ぶ結果になってしまった。
町の中華料理屋に行って、ワンタンメン、タンメン、タンタンメンが、
並んでメニューに載っていることはまずない。似た文字の羅列によって客を混乱させないためのお店の配慮なのかとも思えるが、恐らく違う。
この3種類、スープの味が違うので、横一列に並ばないのだ。(と、私は勝手に考えている)
店によって味は異なるのかもしれないが、大概の中華屋では、
ワンタンメンは醤油味、
タンメンは塩味、
タンタンメンは味噌味である。
それによって、一列に並ぶことはないのである。(たぶん)もし、これらの麺が全て醤油味で、隣同士に配置されでもしたら、ゲシュタルト崩壊だけでは済まない惨事が起こりそうだ。
客が「タン」だらけの短冊に目を回し、つい「タン」を一つ多く発声してしまう。タンメンを食べたいと思っていたのに、いかにも辛そうなタンタンメンが運ばれてくる。
そんな悲劇を生みかねない。
ゲシュタルト崩壊によるヒューマンエラーが、店側でも客側でも起こりうる事態になってしまうのだ。
トラブルの多発を予感させ、満足に店を開けていられなくなりそうだ。この3種のラーメンの味が異なることが、全国の中華屋さんを救ったと言っても過言ではない。
しかし、このワンタンメン、タンメン、タンタンメンで、ゲシュタルト崩壊を起こすのは恐らく日本人だけだろう。ラーメンの本場中国では、これらの麺は漢字表記となり、雲呑麺、湯麺、担々麺となるからだ。
だったら日本でも漢字表記にすればいいじゃない。と思われるかもしれないが、町の中華屋さんのメニューの短冊が漢字表記だったら、少し、尻込みしてしまう。
え?もしかして本格派中華なのかな?
と思い、求めていた味を食べられるか、急に不安になってくる。
だが、よくよく考えてみると、ワンタンメン、タンメン、タンタンメンが、すべて揃っている町の中華屋さんがあるだろうか。大概どれか一つはメニューにない気がする。私の予想だと、町中華においては、若干、タンタンメンが劣勢のように思う。
しかし、タンタンメンは、最近、勝浦タンタンメンという、ご当地ラーメンが有名になってきたし、ワンタンメンも山形県酒田市に名店が多い。さすがにタンメンはないだろうと思っていたら、何と、岐阜には、タンメンの名店が多いらしく、岐阜タンメンと銘打っているのだ。
各都道府県にゆるキャラが存在するように、もしかしたらラーメンにも各都道府県それぞれのご当地ラーメンが、すでに存在しているのではないかと、恐れおののいてしまう。
しかし、ここまで書いてきて何なのだが、今日、私は驚くほどタイピングミスが多い。ワンタンメン、タンメン、タンタンメンは、Nのキーを押す回数が異様に多いのだ。
Nキーを連打していたら、かつてファミコン少年たちを熱狂させた高橋名人の「16連打」を思い出してしまった。どうしてもNキーを必要以上に押してしまう。
しかも、「メン」とタイピングする際、NキーとMキーが隣り合っているせいで、間違いやすさが倍増しているのだ。
もう訳がわからない。
私の脳内は今、タイピングのゲシュタルト崩壊が起こっている。
やはり、ワンタンメンタンメンタンタンメンを、横並びにするのは危険なのである。