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金柑を見ると、思い出す人がいる。 ひとりは母で、もうひとりはデパ地下で出会った通りすがりの女の人だ。 金柑は、ピンポン玉ほどの小さな柑橘類の果物だ。ひょっとしたら、卓球もできるのではないかと思えるくらい、丸くてコロコロとしている。 私の母は、旬になるとこの金柑をよく買って食べていた。母の口から、 「私、金柑大好きなのよぉ」 と言っているのを聞いたことはないので、大好物ではないのだろうが、時期になると、母は一人で金柑を食べていた。 随分前に、夫、祖母、母、私の
「最近餃子食べてないねぇ」 と、夫が言った。 何だかそう言われると食べさせないといけないような気がしてくる。 今すぐ食べさせなくちゃ! 私は焦る。夫の口が、親鳥の運んでくる餌を待つ、大きく開けたツバメの嘴のように思えてくるのだ。こんなとき私は猛然と立ち上がり、ある店に直行する。 埼玉に越してきて嬉しかったのは、最寄り駅近くにぎょうざの満州が出店していることだ。以前は、私も随分と餃子作りに血道をあげたが、餃子の満州が徒歩圏内にあるのに、今更、野菜をみじん切
日本人とは忙しいものだ。 ついこの前、節分で豆を撒き、恵方巻を頬張っていたばかりなのに、世の中は既にバレンタインの気配に満ちている。毎年こうして、和から洋への急な方向転換が行なわれているのだ。考えてみれば、日本ほど外国の行事を生活に取り入れている民族は無いような気がする。 私もバレンタインチョコを贈った経験はあるが、詳細な記憶は残っていない。一世一代の決意をもってチョコを渡したことがないからだろう。唯一、断片的に覚えているのは、結婚前、夫に作った手作りチョコのことだけ
今日は立春。暦の上ではもう春だ。 春の食べ物といえば、山のものだと、タラの芽やフキノトウなど、香りの良い山菜がたくさんあるが、海のものは、何といってもアサリである。アサリは砂出しさえしてしまえば、みそ汁、酒蒸し、洋風のパスタにだって使える旨味の万能選手だ。 しかし今、このアサリに激震が走っている。なんと、熊本産として売られていたアサリの97%が、実は外国産だったのだ。私はこの産地偽装のニュースを知り、 「きゅっ…きゅうじゅう、ななぱぁせんとぉー?!」 あさっての
この前、年が明けたばかりだと思っていたのに、明日は何と、節分だそうだ。生きていると、いろいろなことに慣れていくものだが、時間の速さは、いつ何時でも私を驚かせに来るので油断ならない。 節分といえば豆だ。 昨年の今頃、スーパーで小学校低学年らしい男の子が、 「お父さん!節分の豆買ってよ」 そう言って、お父さんの袖を掴んで引っ張っていた。 「えぇ? この前買ったじゃないか。そんなに買っても食べきれないよ」 お父さんは、少し驚いた様子で男の子を見る。 「ボク、豆好きなんだ