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花丸恵の食べたり呑んだり作ったり

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自分が書いた食べ物やお酒などに関するエッセイをまとめました。 食べた感想だけでなく、食べ物に関して疑問や思ったことなども書いています。 今後もどんどん追加していきます。 食いしん…
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記事一覧

にわかかまぼこ

 好きなものを「好き」と素直に言いにくい世の中だと感じるのは、私が人目ばかり気にして生きているからかもしれない。  一時のブームに食いついて、簡単にファンになったり、「好き」だと公言する人のことを、人は《にわか》と呼ぶ。  この《にわか》という言葉が巷に溢れるようになってからというもの、私の「好き」は胸に秘め置かれるようになってしまった。自分の《好き度》が《にわか》なのか、そうでないのか、判断がつかないからだ。  自分が「好きだ」と思っているジャンルの話になっても、 「

主婦業を引退します。

 どうやら私は、骨の髄まで昭和な人間らしい。  平成の真っ只中に青春時代を送ったにもかかわらず、なぜか「引退」と言われて、思い浮かべるのは、安室奈美恵ではなく、純白の衣装に身を包んだ山口百恵の姿である。  ラストコンサートで「さよならの向う側」を熱唱し、舞台中央に白いマイクを置いて、芸能界を去っていった山口百恵。  一度見たら忘れられないドラマチックなシーンは伝説となり、平成を経た令和の今では、もはや神話となっている。  私はただの主婦である。  伝説や神話とは無縁の暮

梅流しで腸内の大掃除をする。

 梅流しというものをご存知だろうか。    さだまさしの名曲、「精霊流し」の親戚のような名前であるが、まったくの赤の他人。梅流しとは、梅干しと大根、昆布を使った胃腸の働きを促す食事療法だ。  梅流しをやると、数時間を待たずして、ほとばしるほどのお通じが発生し、これでもかと、腸に溜まっていたものが流れていく。  よく高圧洗浄機のコマーシャルで、一気に汚れた外壁なんかを洗い流す映像があるが、あれが腸内で起こるのだ。  お通じにお悩みの方。  体が重く感じる方。  食べ過ぎたな

アピールおじさん

 もう20年以上前の話なのだが、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだった、讃岐うどんのチェーン店にお昼を食べに行った。  讃岐うどんがブームになっていたこともあり、昼時を避けたのにもかかわらず列ができていた。皆、トレイを手に列に並び、天ぷらを選んだり、かけにするか、冷やにするかを決め、レジで清算している。  迷い箸ならぬ、迷いトングで天ぷらを選んでいる人を横目にしながら、私は余裕綽々で列に並んでいた。このときすでに、私は食べるものを決めていたからだ。  おろしぶっかけうどん(中)

テニスボールとモンブランのうねうね

 どういう訳かわからないが、3、4歳くらいの頃住んでいた社宅の部屋に、筒状のテニスボールケースが置いてあった。  我が家にテニスをする人はいない。  今となっては我が家にテニスボールがあった理由を解明することはできないが、幼少期の私は、このテニスボールケースに、それはそれは熱い視線を送っていた。  子どもの私の目には、このテニスボールケースがチップスターに見えていたのだ。  共通点は、筒ということだけ。  調べてみると、硬式テニスボールの直径は、一般的に6.54~6.8

体感型飲料水

 子供の頃、数人で友達の家に遊びに行くと、おうちのお母さんが、冷えたコーラやサイダーなどを持ってきてくれたのを思い出す。 「ありがとうございます!」  皆でお礼を言い、ごくごくと喉を鳴らす中、なかなか飲み物に手を出さない子がいた。 「あら? どうしたの?」  お母さんが心配そうにその子の顔を覗くと、 「……ごめんなさい。私、炭酸飲めないんです」  そう言って申し訳なさそうに背中を丸めた。 「あらやだ。そうよね、苦手な人もいるわよね」  と、お母さんは彼女のために、オレンジジュ

出不精の選択

 面倒臭がりのうえに、筋金入りの出不精のせいで、毎日家に引きこもってばかりいる。そのせいで気づかぬところで損をしてきたかもしれない。でも、それを気に病んだりしないのは、やはり家にいるほうが性に合っているからだろう。  そんな私を外に連れ出してくれたのは夫である。  夫も特に活発なタイプではないが、若い頃バイク乗りだったこともあり、旅が好きだった。そんな夫に付き合って出かけるうちに、まぁ、旅行くらいなら出かけてもいいかな……と思うようになった。  旅の間は家事をしなくていい

餃子にまつわるドラマの話

 私が餃子を好きになったきっかけは、テレビの深夜番組だった。  高校生の頃、眠れずにテレビをつけると、これまで見たことのない番組をやっていた。刑事ドラマらしく、張り込みをしているベテランと新米、二人組の刑事が、町の中華屋に入った逃亡犯の様子をじっと窺っている。  逃亡犯は、餃子とライスを注文した。それを見た新米刑事は 「やっぱり餃子にはビールじゃないですか? ご飯なんて邪道でしょう」  と嘯く。だが、ベテラン刑事はその言葉をたしなめるように、餃子はご飯があってこそだと主張す

どうする黒豆!

 家康は、様々な苦渋の選択をしたことで、天下泰平の世を築くに至ったという。  私も12月に入り、心に決めていることがあった。  それは、  もう新年のおせちに黒豆を煮ない。  ということである。  私にとって黒豆は、料理の上手下手を占う重要な料理だった。  関東では顔が皺皺になるほどの長寿を願って、皺の寄った黒豆を煮る。だが、高級おせちの黒豆の多くは、皺の寄らない黒豆を提供している。  そうなると、素人ながらも玄人の真似事はしてみたくなるものだ。  この黒豆を皺を寄ら

ゆく年くる年、六花亭

 とうとう大晦日。  差し迫るというよりも、真隣にぴったり2024年が座って待っている状態だ。 「もうちょっと待ってくれない?」  と頼んでみても、辰のセーターを着た2024年は笑顔で首を振っている。どうやら待ってはくれないようだ。  ならば来い!  来るんだ2024年! さぁ!  私が両手を広げるも、 「まだ、ちょっとあるから……」  と言って2024年は、この胸に飛び込んできてはくれない。  時間厳守。2024年、時間をきちんと守れる良い子である。  さて。  大

辛さ炸裂!「すりだね」を作る。

 私は辛いものが好きだ。  日常生活はできるだけ刺激なく、安穏と暮らしたいと思っているのだが、時折、舌には強烈な刺激を求めてしまう。中学生になった頃には既に、そんな刺激を求めていた記憶がある。  かつて「とんがらC」という、カプサイシン入りの飲み物があったのをご存じだろうか。1999年頃に大塚製薬が発売した飲料水で、飲むと甘いのに舌に少し辛さが残るような、不思議な味わいの飲み物だった。家族はマズイと言って二度と手を出さなかったが、私はその辛味が気に入り、入手不可能になるまで

創作大賞2023授賞式の軽食の話

 午後6時半開場、午後7時開始。  その時間を見て私は咄嗟に思った。  ごはんはどうする?  この度、創作大賞2023で入選という結果になり、私は授賞式に出席することになった。noteの運営さんから頂いたメールで日時を確認したら、完全に夕飯時だったのだ。  もし、食べる時間が無いならば、事前に済ませておかないと私の腹の虫が、会場の皆様にご挨拶申し上げることになってしまう。自己紹介の前に「グーキュルルルル!」では目も当てられない。  そんなことを思っていると、授賞式の数

爆弾ハンバーグ(フライングガーデン)の店員さんに謝りたい

 外食をするとき、堂々としていればいいものを、なんとなく、おどおどしてしまう。一番、おどおどするのは注文のときだが、食べ終わってからも、どういうわけか落ち着かない。  食べ終わった空の皿が並んでいる。  これを片付けやすいようにテーブルの端にやり、空いたところを使い捨ておしぼりで拭いたりする。役目を終えたおしぼりや紙ナプキンをきっちり結び、まとめて一か所に置いておく。片付ける人の不快にならないように、つい、あれこれ考えてしまうのだ。  以前、飲食店のホールでアルバイトをし

野菜の蛇腹切りにハマる

 蛇腹切り。  文字だけを見ると、何とも物々しい。今にも鎌首もたげた蛇がシャーッ! とこちらに飛びついてきそうな雰囲気を醸し出している。  数年前の夏、奈良の山奥を歩いたとき、大きなカナチョロ(正式にはニホンカナヘビ。胴の長いトカゲ)だと思って、呑気に近づいたら、小さいアオダイショウだったことがあった。カナチョロに脚がないだけの見た目なのに、やはり蛇だと思うとそれだけで怖かったのを憶えている。  あの年の夏もなかなか暑かったが、それ以上に今年はどうにかなってしまいそうなく