不思議な薬指
目覚ましがなる
むぅーもう少し寝たい。
けど、あれも、これもしなきゃ
と思いつつ布団から出られない。
2度目の目覚ましがなる
「いち、に、さん」で起き上がる。
テレビをつける
推しメンが俳優さんと結婚報道
「また、結婚か〜」と
ため息をつく。
友達も結婚・出産の連絡が多くなった
結婚式に出ることも増えた。
お祝いを贈ることが多くなり、
「いつか幸せが来るよ!結城は優しいから、いい人と結ばれるよ」
なんて言うけど、彼女いなくて10年。
とうとう30歳になってしまった。
ついに祖父母に「ひ孫が見たい」とまで言われ
ショックを受ける。
たった5分のバス停まで、早歩き。
ゆっくり歩いてバス停まで向かった記憶がない。
もう少し朝、余裕があればと思う。
バスに乗れば15分ほどで到着。
職場は、バス停を降りた向かいにある
「ひばりが丘図書館」
図書館司書として、働いて8年目
職員の中では、中堅だ。
桜が散って少し暑くなってきた6月。
相変わらず、朝は起きられない。
が「いち、に、さん」で起きる。
テレビをつける。
朝ごはんを食べ、支度をする。
毎日、欠かさず見る占い。
まぁ、いい日しか信じていないが。
今日の占いは、12位
『感が鈍い。』
ラッキーアイテムは、アクセサリー。
関係ないなぁ。と思いながら
テレビの電源を切って。家を出る。
「キラン」
何か光っている。
指輪だ。
珍しい落とし物だ。
バスを降りたら、交番がある。
そこに届けよう。
バスに乗るまでに、チラッと
指輪を見ると『Yui.S』と書いてある。
結婚指輪か婚約指輪か?
そう思いながら、バスに乗り
音楽を聴きながらいつもの停留所で降りる。
交番に届け、落ちていた場所の住所などを書く。
『お願いします!』と
言って職場へ。
私の職場は、図書館。
大好きな本に囲まれて仕事をするのが楽しい。
『おはようございます。』
と言ってカウンターに入ってきたのは
佐藤ゆめさんだ。
『おはよう。』と言った時だ。
左の薬指がピクピクと動く
ん?左薬指を見てしまった。
特に変化は、ない。
何だろう?
佐藤さんだが
寡黙だが、仕事が早く、好きな作家が同じである。
最近は、本意外にも、好きなバンドについてお互い、話すことが増えた。
仕事をこなしていく中で、本の返却にきた女性がいた。
常連さんだ。
「この本、在庫状況にはあると書いているのですがそこになくて」と
困った様子だ。
「少々お待ちください。」PCで確認をする。確かに在庫は、ある。
「一緒に行きましょう。前後の棚に入っているあるいは、誰かが現在、図書館内で手にしているのかもしれません。」
とわたしは言って、その場所に一緒に探しに行った。
その場所にはなかった。
しかし、「あった!」
横段にズレておいてあった。
「ありがとうございます♪」とその女性が言う。
ピクピク
また、左薬指が動く
何だ?
そのあと、お昼休憩の時に
佐藤さんと話すときだけ、ピクピクと動く。
佐藤さんと常連さん・・・
意味が分からない・・・
その日の業務を終え
いつものコンビニに寄る。いつもの弁当とコーヒー牛乳を買う。
支払いを済ませ、コンビニを出たときに携帯が鳴る。
ディスプレイには、
「雅人:今日暇だったらうちで一杯どう?」
雅人は、高校時代の友達。彼は、この町で歌い手として活動している。うちのアパートのお隣さん。
「結城:一杯だけな。」
もう一度、コンビニに戻り、おつまみと彼の好きなビールを三本購入。
自分用にプリンとお菓子も。
ガチャ
また、カギ閉めてないし。
「いい加減カギ閉めなさいよ。田舎じゃないんだから。」といつものセリフを言って入る。そして彼のシューズをそろえる。お決まりの行動だ。
「やぁ~結城、元気か~?」とすでにお酒が入っている。
「元気も何も普通だよ。」と感情もなく言いながら買ってきた
おつまみを渡す。ビールは冷蔵庫へ。
「そっか。おつまみサンキュー相変わらずだねー。手ぶらでいいのに。」
「またコーヒー牛乳かよ」と缶ビールで体を突っついてくる。
「次のライブは、いつ?」と聞いた時だった。
「来週です。」聞いたことがある女の人の声が
「咲良さん!」と僕は、びっくりした。
咲良さんは、歌い手・踊り手界隈の推し。
きれいなストレートヘアで、歌声は低めなところに惹かれた。
彼が言う
まだ公表していないんだけど
「咲良と結婚するから。」
え?思考が追い付かず出た言葉が
「俺の推し取るなぁ~」とそばにあったクッションで一発
「あっははは」と雅人が笑う。
「やっとラフな顔になった。」
「咲良さんやめた方がいいですよ!」と意味もなく必死に言った。
「そうね!結城さんが言うならやめようかな」と冗談交じりの笑顔で
雅人の横に座る。
「おいおい結城やめてくれよ~人の幸せ壊すなよ~」
これを報告するためかよ
「今日SNSで流してやる!」と悪意を込めて言ってやった。
「お前はそんなことする奴じゃない。」とあっけなく言われてしまった。
「そっかついに雅人も結婚か~」
と自分の左薬指を眺めた。
その時、今日の出来事を思い出した。
「今日、不思議なことがあったんだよ」
「なぁ~に?」と二人とも興味津々だ。
「今日ね、同じ職場の人と話すときに
左薬指がピクピクって動いたんだよ!」
「職場の人限定か?俺と話しているときはどうなんだよ?」と雅人が言う。
「職場で一緒に仕事している女性と話すとき」
「あと常連さんの本を探してあげて、お礼を言われたとき。」
にピクピクってなるんだよ~
「その時だけ、なんか刺さったんじゃない?」と雅人は言う。
それまでじっと聞いていた、咲良さんが
「いつもと違うことなかった?」と聞いてきた。
いつもとちがうこと・・・
「占いが12位とか?」と言ったら。
「結城は、年中12位みたいな顔しているぞ」と雅人が言う
「ビール没収するぞ!」というと「ごめんって」と笑う。
「それよりさ、次回うちの咲良とチェキ300枚撮ってくれないか!?」
何を急に言い出すんだ。
「もう雅人飲みすぎだ!」とビールを取り上げ、ミネラルウォーターを渡す。
「3枚なら撮るよ。あと新しく出た、ブロマイドも買う予定♬」とオタ活モード。
「ありがとうございます。」と咲良さんがこちらに礼をする。
咲良さんのかわいさに見とれていたら。
パチン!雅人から一発
「人の嫁をそんなに見ないでくれよ!」とすねている。
「300枚もチェキ撮れるくらいお金ないよ今」と一応
質問には真面目に答えてあげる。
「だよな~結婚指輪買ってあげたいんだが、あと少しお金足りなくて。」と悲しそうな表情。
そういった時に、さっきの話を思い出した
「あっ!」自分でもびっくりするくらい大きな声だった。
「どうした?そんなでかい声出して。」と雅人が言う。
「そういえば今日の朝、指輪拾って交番に届けた!」と何だか
難しい問題を解いてあっていた時のような感覚だった。
「その指輪なんで届けるんだよ、俺にくれよ!」と雅人が言ったがスルー
咲良さんが「その指輪、何か不思議な力あるんじゃない?」
「ファンタジーすぎません?」と推しの意見を否定したくはなかったが
言ってしまった。
「その指輪イニシャルとかあった?」と聞かれ、「ありました。」
「Yui.S」って書いてありました。
「知り合いにゆいさんっている?」
「いないですね~」
「Sってさ苗字じゃん。いくらでもいるよな」と雅人が珍しくまともなことを言った。
「ピクピクってなるのは、その二人だけ?」
「そうですね。」と考えながら答える。
「その二人の苗字はSじゃないの?」とこちらにとてもキラキラした視線が
「2人ともSだ!咲良さんすごい!」と少し興奮してきた。
同僚は、佐藤ゆめ
常連さんは、佐々木ゆか
「てか、なんでピクピクするわけ?」と雅人が言う。
「確かに」とスタート地点に戻された気分だった。
「左薬指だからどちらかが結城さんのことがスキだとか!」と咲良さんがとってもかわいい顔で言ってきた。
その顔を見て照れてしまった。
「まじかよ!お前その二人のうちどちらか好きなの!?顔真っ赤だぜ!」と雅人が言う。
「ちがうよ咲良さんの笑顔が可愛すぎて赤くなったの!」と雅人のお腹を突っつく。
「どちらかがスキ」か~
そんな雰囲気は感じ取れない。
その日お開きとなって、家に帰った。
頭の中がぐるぐるとしている間に、眠ってしまった。
朝起きて、今日はバス停まで全力ダッシュだった。
2週間後ある変化が訪れる。
常連の佐々木さんが、一人ではなく男の人と一緒に来たのだ。
2人の左薬指には、きらりと光る指輪。
その時、ピクピクがなくなった。
「あの会員証の名前を変えてほしくて。」とうれしそうな表情で言う。
「わかりました。」とにこやかに対応した。
彼女は、佐々木ゆかから真中ゆかに変わった。
仮説:相手が好意を抱いているというのが消えた。
なぜなら、2週間前からきっと彼氏さんとの婚約は決まっていたはずだ。
帰宅後。
新たな仮説として、
結婚しますよという匂わせ的なものではないか?と思った。
しかし、それだとしたら
周囲の人で結婚しますという人全てに反応してしまう。
あー、めんどくさい!
考えるのをやめた。
次の日、
休日ということもあり、推しのライブへ。
もちろん。雅人と咲良さんもいらっしゃった。
あのあとどーなったの?と雅人に聞かれた。
常連さんは、結婚してた。
残るは、同僚のみ。
ただ最近、ピクピクなる時とならないときがあるんだよ。
変だね〜。
まっ、今日は100枚チェキ頼むよ!
無理。3枚で!
撮り終え、会場を後にする時。あれ?
受付の前にいるのって。
佐藤さん!?
声をかけるつもりは、なかったが声が出てしまった。
あっ、伊藤さん。
佐藤さんもびっくりだ。
誰みにきたの?と聞いてみた。
咲良さん見に来たの。
え!?俺も咲良さん推しなの!
そうなんだ!と2人で話をしていたら
咲良さんがやってきた
あれ?2人知り合い?
同じ職場なんです。と佐藤さんがいう。
そうなんだ〜
あのこの間話してた、指輪見つかりました!
と佐藤さんが咲良さんに見たこともないキラキラの笑顔で言った。
ホント!よかったね!
あれは、咲良さんからもらった大切な指輪だったから無くした時は、ショックだったし、とても申し訳なかったけど、見つかってよかったです!
なんかバス停の近くに落ちてたみたいです。
男性の方が拾って届けてくださったそうです。
よかったねゆめちゃん!と咲良さんがいう。
同時にこちらを見て、ニヤリとしている。
佐藤さんの指輪は、人差し指にある。
思わず聞いてしまった。
その指輪のイニシャルってもしかして、
Yui.S?
「はい。そうです。」と怪しそうな顔で答えた。
「それ俺が拾って届けたやつ。」と言うと。
「ありがとうございます♪ほんとに助かりました。」ととても笑顔だ。
咲良さんって
咲良ゆいさんっていうんだ。
その後、色々な話をして過ごした。
それ以降、左薬指がピクピクとなることはなかった。
何かの出会いか
俺も誰か結ばれるのかと
変な期待をしていた自分が恥ずかしい。
この文章で、この後どうなったかわかるかい?
そう、俺が結ばれたというオチではないのさ。
佐藤さんは、のちに入ってきた後輩と結婚。
指輪のイニシャルは、
Yume.Sだって。
Sは、櫻井さんのSだって。
おしまい
このお話しは、フィクションです
©️七沢 心空
オフトーク
恋愛運なさすぎの
心空さんらしい、オチ!
完璧!
自画自賛してる自分ダメです。
いつになったら左手薬指に指輪をつけられるのでしょう?
はいどーぞ💍
うん
って満足しないわ!
まぁ、結婚が全てじゃないし
と言い聞かせているが、、、
それでも、恋したいなぁ〜