生理による女性の不利

女性はある一定の年齢になると月経と言う恐ろしく嫌なものに見舞われる。

私の場合は天地がひっくり返り、自分は相当きたないものだと確信し憂うつ病になってしまった。私はこれからどうなって生きていくのだろうかと空恐ろしくなった。女になったと言う人もいる。この言い方は私には気に食わない。私は女に生まれていて何も新たに女になる必要は無い。反対に男になったという言葉はあるのだろうか。暴力団員が他の暴力団員を殺したなど男になったとヤクザの親分が時に使う。

生理について教育されていない時代だった。我が家の母が無知だったかも知れない。生理などと言う言葉は使ったこともなく聞いたこともなかった。
月経や生理は親しい女の友達の中でも話せない禁句だった。私だけに襲う恐ろしいものだと思っていた。パットを持ってトイレに行く時は非常に気を遣った。女子ばかりの中学に行っていたがトイレに行くと血まみれのパットが容器に常に山のようになってはみ出していた。
恐ろしい思いをしているのは自分だけではない。みんないつも生々とした顔をしている。みんな生理がないのだとしてもおかしい。みんな秘密にしているのだ。

今のように性能の良いパットはなく母親がコットンを使って工夫して作ってくれていたものを使ったのだが、かさばり学校へ行く時カバンに入れるのが邪魔だった。もう在庫がないから作ってと母親に頼むのも冷や汗が出るほど恥ずかしかった。

バブルの時であったか私が仕事をしていた病院の外来にある優しそうな男性がやってきた。保険証にアンネナプキン株式会社と書かれている。その人は普通に私にナプキンの宣伝をした。私は働きだしてから、すなわち社会へ出て働くようになっても月経と言う言葉を使うのはためらわれた。その時代はしばらく続いた。
私は産婦人科医でもなく大体が中年以降の人たちを診察していたので月経について触れることはなかった。私の認識は相当遅れていた。世の中は変わっていっているのだ。しばらく経って社名が変わりいろいろな用途に応じたナプキンが世の中に出回るようになった。大人のおむつも生理用ナプキンの応用だろう。たかがナプキンされどナプキン。すばらしい吸湿性がありこれでもかこれでもかとナプキンの形を変えてくる。しかし解消されないものも残った。

生理日になると両側の臍の下、卵巣辺りがチリチリと痛む。元気なはずなのに訳の分からない頭痛とだるさがあり、ひどい時にはじっと前かがみになって耐えた。仙骨あたりが重くたまに吐き気を伴うような腹痛があった。月経(前)症候群と言われているもので恥ずかしくて母親に相談した事は一度もない。いくら理想的なナプキンがあってもだめだ。
私の母は女学校の先生をしていたこともあった。こんなのが先生とは!無知だったのか恥ずかしかったのか多分女学校でも禁句だったのか。
私には娘がいるが生理が始まったとかそのことについて一切言わなかった。生理用パットが部屋にあったのでびっくりした。学校で教えられたとか友人同士で話してスーパーで生理用パットを買ったのだろう。まったくびっくりした。

その月経が生殖活動につながっているとわかるのは何年も経ってからだ。
これも大いにびっくりだった。
重要なイベントがあるときに生理日に当たることは当然あった。四六時中痛いのではない、何となくだるい。
男性にはそのような苦労はあったのだろうか?何かあったに違いない。そうでないとアンフェアだ。

大学に入って組織学の先生の講義が私の疑問を解いてくれた。
先生は組織の切片(固定されて染色されている)を顕微鏡で見るのだが、チョークの赤、白、ブルーで黒板にすごい勢いで書いて, ものすごい勢いで消して、次の組織を描きながら主要な事を説明していく。

月経時の子宮の様相を絵にして説明した。子宮内膜のあるその下の血管が痙攣し上皮に栄養がいたらなくなり壊死して外に出すのが月経と呼ばれるものだった。
1回の生理で失う血液の量は約80ミリリットル前後
1年に1リッター位の計算になる。生理日には女性の顔色が悪い。この人は今生理だと私にはわかる。凝血塊にならないのが他の凝固とは違うと習った。
じわじわとした出血が特徴だ。生理があることは子どもを産むことができる。
日本の女性の閉経は50歳前後で生理はおよそ37年間襲っている。ホルモンの低下が起こり経血の量が次第に減り生理の間隔も不規則なって閉経し違う人生に移っていく。

男性にははっきりとした更年期と言うのはないが、男性ホルモンは徐々に低下してくるので外見上急激な衰えは見られないが語られることがはばかれるような変化に見舞われているに違いない。それにしても男は1ヵ月毎襲ってくる吸血鬼を体に飼っていないだけラッキーだ。それに感謝して女性の仕事の何割かを引き受けるべきだ。

閉経するとほとんどの女性は楽になったと言う。私はここでいつもそれほどラッキーでは無いのよと患者さんには言うことにしている。
もうあんな煩わしい事は無いので私も一緒に万歳を上げたい気分だが。急激な身体の変化すなわち老化が襲ってくる。
ある鳥類は卵を産ませた後、成長するまで雄が育て役を担っている。それはザラだ。雌は別のところに行ってまた違った雄の卵を産む。なんて喜ばしい関係なのだろう。人間の女は子供がお腹にいるだけでも大変だから出産後、鳥のように男が育てる本能をなぜ人類は獲得しなかったのか。男が家庭に入るだけで戦争が起きなくなる。神様の意地悪だ

子供に手がかからなくなるまで男が育児をする。その間女が働きに行く。子供が離れれば男が働きに行く。今現在、女は子供を大人にするために過重な労働を負わされている。
そのうえ排卵、月経というこれまた月々大変な苦痛が加わる。出血をしながら勉学し、働くことは男にできるのだろうか?
世の中に月経についていかなるものか話されることはまれである。微妙な問題と言えなくもないが大した事でもない。実行となるとほとんど可能性は無い

人類が維持されるため子宮はいつもふわふわとした組織で受精卵が着床しやすい状態にしておかねばならない。もし着床する受精卵がなければふわふわした子宮内膜は脱落する。
生理的現象で生理の期間とその前は独特なお腹の緊張感と重い痛みがある。生理中もそれが続くはまたの間からじくじくと出血があり決して侮れるものではない。パットをうまく装着していないと下着が汚れ、夜は寝込んでしまうと布団まで汚れてしまうのでその間は注意していなければならない。人にもよるが腹の不快感と痛み、頭重感、倦怠感が生理の終わるまで4、5日続く。その期間に重要なこと例えば入学試験とか学期末試験とかがあってもそれで休んだらアウトだ。

昔は生理の時期を変えることができなかった。ホルモンを調整できない昔のオリンピックの選手はどうしていたのだろう。
女性のオリンピックマラソンが始まった頃には黄体ホルモンを飲み続けて生理を遅らせる事はできるようになっていた。

なぜ思うようなことを書くかと言うと女性の仕事の選択にも関わることだからだ。集中力が落ちてしまうときに命に関わる事は避けたい。私といえば若さの至りであり今だったらもっと違う科を選ぶのだが。つまり急性期疾患の多い科は避ける。
定期的に送ってくる現金は貰いたいが、煩わしいばかりの(それにしてもこの周期はどの民族も1ヵ月前後とは摩訶不思議) 定期的出血は避けて通りたいものである。男性は関係ないと真正面から向き合わないのは当たり前だ。
女が頑張って排卵はあるが月経が起きないようにしたら良い。月経に打ち勝つ方法を思いつかない限り男と太刀打ちはできない。それでも良いと言う社会であればそれはそれで良い。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?