「あ、可愛い」 ショーウィンドウの革製のサボ。 でもこないだスカート買っちゃったしなぁ…… 名残惜しい気持ちで視線を外して、空を見上げてみる。 今日はいい天気だけど、風が強い。 すごい速さで流れていく雲を見ながらぼんやりしていると、不意に甘い香りがした。 あ、なんだっけこの香り…… 「おまたせ」 声に振り返ると、穏やかな笑顔のコータが手を振りながら近づいてきた。 細身の黒のパンツにボーダーのインナー。カーキグリーンのシャツを羽織って、 今日も猫目の綺麗な顔は、若い女の
「ほら、しょぼくれた顔しとらんでさっさと座りねぇ、化粧は済ませたんじゃろう?」 「うん……」 襦袢を着て、俯いて立っている孫の絵美に着付けるべく、 買ってきたという浴衣の包みを開く。 バサッと広げると、藍色の地に白く浮き上がる竜胆の花。 所々に藤色が差し込まれて……こりゃあ、素敵じゃなぁ。ひと目で上等とわかる。絞りの浴衣。 確か、臙脂色の帯があったがなぁ。それが合うじゃろう。 もう九月じゃけん、襦袢に簡略な白の半襟を付けて、 単の着物風に足袋を履くのがええじゃろうな
本日の更新は作者体調不良のため勝手ながらお休みさせていただきます。 楽しみに見てくださった方々、誠に申し訳ありません🙇💦
「あー、だりぃな授業」 「サボっちゃえば?」 クスクスと明るく笑いながら、夏菜子が首を傾ける。 茶色いウェーブの髪が日差しを反射してキラキラ光る。 眩しさと、誘うように色づいた唇に俺は目を細めた。 最近、何もかもがダルい。 長年だらだら付き合ってる彼女も。 実家の病院を継げと、進学の話を口うるさくしてくる親も。 何もかも忘れて自由になりたくて。 我慢できないほどイラつく時は、校舎の裏庭でぼんやりと過ごす。 そんな時、同じくやる気がない同級生の夏菜子と顔を合わせる機会が
まったくイヤになる。 なんでこんなにも思いどおりにいかないのかしら。 私はね、かっこいいひとじゃなくて、やさしくて私にだけつくしてくれるひとがいいの。 なんてかっこつけて、にんきナンバー2のかずくんをふった。 そしてみつけたのは、ちいさな青いハンカチをさしだしてくれたひと。 「なおちゃん、だいじょうぶ?」 どろんこあそびで、すりむいたところをあらっていた私のこころにひびいたの。 きがきくやさしいひと。 ゆうまくん。 タレ目
会社の受付に濃いピンク色をした鮮やかな花が活けられている。 普段から通勤時にはなんとなく見てしまう。 気品ある笑顔の受付嬢と、その横にどっしりと構えるきらびやかで大きな花器。 あの花はいつも誰が変えているんだろう。 関係ない部署の私にはてんで見当がつかないけど。 多分、花の名は 「……グラジオラス」 すんなり出てきたことに驚いた。 学生時代にアルバイトした花屋の記憶が蘇る。 しなやかな手で美しい花束を作る女店長は、花のことはなんでも知っていた。 花言葉は、ありきたり
向日葵の形をした、金色のヴィンテージイヤリング。 可愛いなって。ちょっと前から、チェックしてお気に入りに登録してた。 けど、そうやって悩んでたら売り切れてた。 私っていつもこう。 学生時代に、好きだった男の子に彼女ができて、実は彼、あんたのこと好きだったらしいよ?って後から言われたり。 ほんと、何もかもタイミング悪くて逃してばっかり。 なんか凹む。 最近、結婚適齢期ってやつらしくて親に急かされる。早く孫の顔が見たいらしい。 そんな事言われても、出会いもないしって、しぶし
「あっついねぇ」 「あっつい」 夏の夜。むっとする空気は嫌いじゃないけど、人混みはあんまし好きじゃない。 喧騒を避けながらコンビニの袋を下げてゆっくりと歩く。 「花火、きれーだった」 「うん!あの振動がやばいよね」 花火大会の帰り道。人混みに辟易した私は友人(男)と道端の階段に腰掛けて一杯やって帰ることにした。 ざわざわと駅に向かう人の群れを眺めていると、傍らからプシュッと音がする。 「ん」 向くと、自分のビールを開けた彼が私の分のビールを差し出している。 「
「部長って花に例えたら、ひまわりっぽいですよね」 会社企画のビアガーデン。 壁に貼られたポスターを見て、不意にアルバイトの子が言った。 ジョッキを持ったままぼんやりとその声を聴く。 「おー?そうかぁー?」 「俺、なんとなくわかるな〜」 「ですよねぇ?」 「ね!平井さんもそう思いません?」 若い女の子たちに顔を見られて照れている部長。 いつも朝礼で、まっすぐみんなを見つめながら話しているおじさんの、俯いた顔が可愛くて 「わかるかも」 微笑んで同意した。 あくま