〔介護を学ぶ15〕介護に始まり介護に終わる1日に、自分の時間を作ろう
◆介護現場の1日
介護の現状について、夫の介護を始めて24年になる早苗さん(73歳)の介護を覗いてみましょう。
夫(75歳)は脳卒中で右半身が不自由であり、上手にしゃべれません。
軽い認知症もあります。
★起床
早苗さんの朝のスタートは6時半。
着替えてを済ませ、朝食を作ってから夫を起こす。
夫は夜だけオムツを使用しており、そのオムツを外して蒸しタオルでお尻と陰部を拭いて、尿取りパットを当ててパンツをはかせる。
夫がベッド柵を握って体を支えている間に、
パジャマの上着の着替えをする。
夫を車イスに移して食卓へ。
★朝食
夫に介護エプロンをつける。
右手にコップ、左手にボウルを持ち、
夫の口に水を含ませ、うがいをしてボウルに吐いてもらう。
部分入れ歯を入れて
「さあ、食べよう」
食パンに切ったフルーツを入れたヨーグルト。
飲み物は野菜ジュース、ミルクティ、お茶。
★朝食後
朝食後は、車イスで洗面所へ。
電動歯ブラシや電気ひげそりで、自分でしてもらう。
続いてトイレへ。
「お父さん、立つよ!ハイ、よいしょ!」
ズボンをつかんで立ち上がらせ便座に座らせる。
夫の体重は56kg。早苗さんは小柄なため、毎回ひざに痛みが走る。
「出た」
と夫から声がかかるとお尻を拭いて終了。
汚れ具合によっては、お尻洗浄器で洗う。
「お父さん、今日の一大行事が終わったね!」
と喜びの声が出る。
その後、夫をテレビの前に。
早苗さんは朝食の片づけや洗濯、掃除。
10時半にはホッと一息だが、11時半からもう昼食の準備だ。
★昼食
蒸したさつまいもとゆでた枝豆をつぶして牛乳でのばしたペーストが定番。
リンゴやソーセージ、さつま揚げを切って出す。
お好み焼きの日もあれば、ピザにする日もある。
昼食後、夫はベッドでテレビを見たり、ウトウトしたり。
その間に1度尿取りパッドを替え、買い物へ。
午後3時に夫を車イスに移しおやつタイム。
夫は夕方までそのままテレビを見るので、
早苗さんはようやくフリーになる。
★夕食
早苗さんは午後5時ごろから夕食の準備を始める。
スプーンとフォークは用意しておくが、こぼすため、エプロンをつけてもらい、7割は手づかみで食べてもらっている。
夫の手や口がグチュグチュに汚れているが仕方がない。
きれいに拭くのは食事が終わってからだ。
★就寝の準備
午後7時に食事が終わり、夫の入れ歯をはずして口をゆすぐ。
夫が自分で歯みがきをした後、
早苗さんが歯ブラシと歯間ブラシで総仕上げをする。
食事の片づけをして、夫を寝かせるのは7時半ごろ。
ベッドに座ってもらい、上半身をパジャマに着かえる。
続いて横になってもらいオムツに替える。
ベッドに大判オムツを敷いて、ゴム手袋をして、便の拭き残しをボディソープで洗い、ペットボトルに入れたぬるま湯をかけながらすすぐ。
最後にズボンをはかせて終わり。
それから恒例のマッサージ。
アキレス腱伸ばし、足首回し、足指の開閉、足裏たたき。
マヒ側の手の上げ下ろしや、拘縮している指や関節を伸ばす。
ここまで終わると朝まで手はかからない。
「おやすみ」となる。
◆自分の時間を作ろう
壮絶な介護現場ですが、早苗さんは、こうした日々を24年続けています。
早苗さんを支えているものは、「悔いのない介護」でしょう。
夫の介護度は年々重くなり、早苗さんの体力も低下してきます。
必ず終わりがある介護ですが、
「もっと頑張っておけばよかった」の悔いを残したくない。
その思い一つで頑張っていることと思います。
夫は週に3日デイサービスを、月に2回ショートステイを利用しており、
その日早苗さんは趣味の習い事に出かけています。
「悔いのない介護」を実現するために、
オアシスのような自分の時間が必要でしょう。
参考文献
1)上村悦子:『あなたが介護で後悔する35のこと』,講談社,2018