人気マンガ『ダンジョン飯』の魅力考察―「食」は世界の希望
『ダンジョン飯』ってどうしてこんなに魅力的なんだろう?
すきま時間でアニメ鑑賞、続きが気になりすぎてマンガ喫茶で最終巻読破。この間2週間という、かなりの駆け足で本作を読み終わった私は、思った。
最初はふんわりファンタジーグルメ系かな~と見始めたが、どんどんその世界に引き込まれた。
数々のマンガ賞を受賞している本作。面白い、大好き!という声もあちこちで聞くが、何がそんなに読者を惹きつけるのか。
その魅力をにわかなりに考察してみたい。
※以下、一部ネタバレを含むのでご注意ください。
あらすじ
仲間を助けようとしてドラゴンに食べられた妹を救出するために、兄ライオスと仲間たちが魔法のダンジョン(迷宮)で、魔物を調達・調理しながら冒険する物語。
感想と考察ー混沌とした世界で「食欲」は希望的な拠り所
結論から言うと、本作の最終的なテーマは「欲望」だろう。
人は願いが叶うともっともっとと欲しくなるものである。この尽きない「欲望」を象徴しているのが、魔法のダンジョンである。
大なり小なり尽きない欲を満たすために人々(人以外も含む)がダンジョンに集まり、財宝を探す者、商売を営む者も現れ、交易の場が生まれていく。
私たちの世界と同じように、長い歴史の中での人種・種族を超えた確執も根深く、権力を握ろうとする者、それに対抗する者の争いも存在する。
魔法のダンジョンを軸にしながらも、作品内には非常に緻密でリアルな世界が構築されてる。
ストーリーが進むにつれてシリアスさや暗さも増していくが、食の場面は物語を一貫して明るい。
シビアな中にもこの明るさに救われる部分が多々ある。どんなに辛いことがあってもお腹が空く、お腹が空くから倒した魔物で調理して、おいしく頂く。
食とは、混沌とした世界における希望的存在であるとも言える。
笑いの要素と遊び心も随所に散りばめられていて、このエッセンスにより暗い展開の中でも読み手は少し安堵しながら読み進めることができる。
「食う」か「食われる」か
基本的には、魔法の存在する世界で架空の食材でご飯を作る話。しかし、繰り返しになるがその世界観は非常に現実的に描かれている。
そもそも冒険するにも、防具の購入、ダンジョン内での水・食料調達、パーティー参加者への報酬支払いなど、お金がかかる。
ドラゴンから辛うじて逃げられたライオスたちは妹救出のために再びダンジョン入りを目指すがお金がない。ここで、タダ働きを拒否してパーティーから2名離脱。
たしかに冒険といえどもタダ働きはダメ、絶対。
なおライオスはトールマンという人種で、パーティーは様々な種族・人種で構成されることが多い。
ライオスのパーティーは仕方なく、魔物を素材に自給自足しながら冒険を続けることになる。
ダンジョン内はまさに「食う」か「食われるか」がオブラートに包まれることなく展開される世界で、前に進むため、生きるために、どんなに強い魔物でも出会ってしまったら戦って倒さなければならない。
この魔物たち、生態の在り方がものすごく丁寧に描かれている。
調理、つまり生き物の命を頂く行為を通じて、ライオスたちは多くのことを考え試行錯誤する。
例えばキノコ型の魔物は繊維に沿って縦切りすると刃が入れやすいと調理中に気づき、今後の戦い方の参考にしたり、人間を捕食した人喰い植物を食べることは倫理的にどうなのか仲間同士で言い争ったりする。
ダンジョン内は地上と同様に微妙な均衡の上に食物連鎖が成り立っていて、どこかの階層でバランスが崩れると他の階層にも変化が生じる。必要以上の獲物を刈り取ってはいけないと、料理担当のセンシ(ドワーフ)は何度も説く。
全体を通して、あらゆる生き物への敬意が淡々とかつ温かく描かれている。
バランスの大切さは「欲望」にも通じる。欲が過剰になると周囲も自分も破滅に導くし、逆に全く欲望がないと生きる意志も湧かないだろう。
何事もほどほどが良いということだ。
魅力的なキャラクターたち
各キャラクターも人間くささがよく出ていて掛け合いが楽しい。それぞれに違う考え方や能力を持つので、ピンチの時にはパーティー内でカバーし合うこともできるし、意見が違うこともよくある。
ライオスの妹をどんなことをしても助けると、報酬を気にせず冒険を続けるマルシル(エルフ)は真面目で頑張り屋。
理想の姿に化けて相手を惑わす魔物との戦いで明らかにされてしまった理想のタイプの男性、いわゆる白馬に乗った王子様が想像の斜め上の姿をしていて、マンガ喫茶で声にだして笑ってしまった。
合理的で、自分の命が一番大事と言うチルチャック(ハーフフット)はライオスたちを置いてダンジョンを出ようとするが、得手不得手を活かして助け合ってきたこと、4人で食事を囲んだ時間を前に葛藤する。
「バカばっかり」と悪態をつきながらも彼らに死んでほしくないという本当の気持に気づく。
主人公ライオスは、決してカリスマ的な最強ヒーローではない。しかし魔物への抑えられない知的好奇心、自分よりも他者の無事を純粋に喜べる優しさや朴訥とした人柄は好感が持てる。
仲間よりも魔物への知的好奇心が若干上回るときもあるのが絶妙だが、頼りなくも思いやりと強い意志を持つことで良きリーダーになっている。
「食べること」の持つ力を全面的に信じている本作。
前述のように、この世界にも長い歴史の中で生じた種族間の確執があり、ダンジョンに取りつかれて欲望に支配され、正気を失う者もいる。
その中でライオスは、この戦いが終わったら(種族も国も関係なく)皆で食事をしようと提案する。生き物に対する分け隔てない愛があるからこその発想だろう。そしてこの愛が、崩れたバランスを修復することにつながる。
食欲を通して仲間との絆を深め、歴史も種族間の確執をも乗り越え、世界の均衡を保つ。
これこそが「あぁ、ダンジョン飯」。
ご馳走様でした。
最後に
拙文をお読みいただきありがとうございました。
私がアニメを見ようと思ったきっかけの「アフター6ジャンクション」というラジオ番組もおすすめです。
ゲームクリエイター渡辺範明さんが国産RPGという専門的な視点で興味深い解説をしてくださっています。
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