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ヘッドフォン芳一
会社へ行く途中の交差点で信号にとまった時、ヘッドフォンをしながら運転している人がバックミラーに映った。
後ろの車は、若者が一人で運転している。
これはなんとか違反ではないのだろうか?
確か携帯電話をしながらの運転は違反だったはずだ。意識をそちらに取られて事故を起こす可能性があるからだ。
だとすれば、ヘッドフォンの音楽だって同じようなものではないか。
周囲の音が聞こえないし、意識だって運転に集中できないだろう。
第一、車にカーコンポがあれば必要などないはずだ。最近の若い者の考えることはわからない。
信号を右折して、いつものコンビニへ入って駐車場へ車を停めると、なんと後ろの車もついてきてすぐ隣に停めたのだ。
よく見ると、やはり耳からひもが垂れている。
これはアイポ○ドとかいうやつだろうか。本体は見えないが、どこかにしまってあるのだろう。
彼は車のエンジンを止めるとドアを開けて中から出てきた。
ヘッドフォンをしたまま・・・。
そしてそのままコンビニの店内に入り、本を立ち読みし始めたのだ。
もちろん、ヘッドフォンは付けたままである。私の目の前で、じっくりと立ち読み体勢に入った。
きっと周りなど気にならないのだろう。自分の世界に入ってしまっているのだ。
いったいどういう心境なのだろうか・・・。
私の頭の中は、目の前のヘッドフォンをした彼になって、コンビニで立ち読みをしていた。
「最新流行アイテム」と書かれたそのページには、映像を記録する装置や小型のデジカメなどが写真入で紹介されていた。
中でも、音楽を携帯するための小さい機器の種類は豊富だった。
私は古いウォークマンでカセットテープを聞きながら、その最新機器を調べていた。
曲はハイウェイ・スター、歌っているのはディープ・パープルだ。
♪~あいまー、はいうぇい、すたあー
ここでギターソロになる。ギターを弾いているのはもちろん、あのリッチー・ブラックモアだ。
♬~ぎゅぎゅぎゅーん、ぎゅぎゅぎゅーん、ちろりろちろりろ
自然と身体にリズムが刻まれる。右足のひざが小刻みに動き出す。
日本武道館で行われた過去の映像が浮かび上がる。
♪~てれれれれ、てれれれれ、てれれれれ、どぎゅじょばぁん
本を読みながら自然と口が開いている自分に気づく。
一瞬われに返った後、周囲に見られていないかを確認すると、目の前に停められた車の男と目が合ってしまった。
本を高く持ち上げて、その視線を遮断する。しかし、周囲の音はまったく聞こえなかった。
しばらくすると、音楽はスローなものに変わった。
いや、そうではなかった。
ウォークマンのカセットテープが伸びてしまって音がおかしくなったようだ。
とびきりのギターソロも、間延びして低い音に変ってゆく・・・。
~ぼよ~ん、ぼよよ~ん・・・
リッチーがあぐらをかいてびわを弾く姿が浮かんできた。
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