「サンショウウオの四十九日」
芥川賞の話題は気にしていなかった。けれど、本屋さんに行くとドーンと並べられていて、ちょっと気になったので手に取った一冊「サンショウウオの四十九日」
まず、びっくりする。「結合双生児」という設定。一つの体に二人いる。一人は5歳までその存在を気づいてもらえなかった。
さらに父と伯父の胎児内胎児というエピソードにも仰天する。
とにかく脳をぐらぐら揺さぶられるような「設定」があり、それをさらりと受け入れている家族にも驚く。家族の葛藤とかではなく、当人の「主観」にガッツリ焦点があたっている。そして理解されないであろうこと、その自分でしか体験できない意識と経験のなかで物語が展開される。
自分一人(と思っていても)でも、アイデンティティの確立とは不安定なものだ。自と他の境界は曖昧で、その感覚がさらに濃くなっている。その肉体を生きること。二つの意識が同じ肉体を体験していること。とても理解は追いつかないのに、感覚的に引き込まれる。
個人的には父「若彦」がお気に入りだ。
母の胎内で10か月、さらに兄の胎内で約1年、自分の肺も使わずのほほんと生きてきた。生かされてきた。
大人になってて、仕事もしてるし、子どもだっているのだから、「何もできないまま」ではない人物のはずはないのに、胎児のままの印象を残す人。自分の無力と重ね合わせながらも、どこか「憧れ」を抱いてしまうキャラだった。
一方で献身的なキャラが父の兄「勝彦」。ふくふくと生まれたはずなのに、ガリガリに痩せていく。その後も病に臥せりがちの人生で、最期まで弟のことを想う(ように描かれる)。
結婚して、子どももいて、大学の先生だった人物なのだけど、やはり「生れ」を軸に描かれるとそこだけに引っ張られる。
私が投影するのは断然「若彦」だった。
芥川賞って、なんか「はて?」と思うことが多くてあまり好みじゃないと思い込んでいた。だけど今回は、面白く読むことが出来る作品だった。