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人生を運ぶかばん
無機物の「かばん(バッグ)」を主役にした読みもの
主役を飾るのは、愛用の須田帆布製「ぷらっとショルダー」
noteの投稿企画「#推したい会社」向けに、ちょっと視点を変えて、書いてみました
わたしの名前は「ぷらっとショルダー」。
茨城県つくば市にある、須田帆布という工房で生まれました。職人さんたちが一つ一つ丁寧に、手作業で作っていて、シンプルだけど丈夫。「毎日ガンガン使える」のが自慢。そして、一番大切にしているのは、持ち主さんとの長いお付き合いです。
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フラップに見えるのは旭山動物園のピンバッジ
わたしたちかばんが生まれる前には、何度も試作が繰り返されるのだそう。試行錯誤しながらサンプルを作る時間を楽しんでいると聞きました。その情熱とこだわりが、確かな命を吹き込んでくれたんだな、と思います。
わたしはこの世に生を受けてから、津軽海峡をわたり、北の大地・北海道へ。そこで、今の持ち主さんと出会いました。札幌の、まだ電車通にあった頃の東急ハンズ(今のハンズ)でわたしを見つけてくれたんです。
たくさんのかばんが並ぶ中で、目を留めてくれて、運命を感じちゃいました。でも、持ち主さんはすぐにわたしを連れて帰ったわけではありません。
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何度も足を運んで、生地の質感や縫製の丁寧さ、金具のシンプルさなどの全てを見て、考えに考えて、わたしを迎えてくれたのです。慎重な性格、わたしは嫌いじゃありません。
持ち主さんは、旅が大好き。そして、「できるだけ身軽に」がモットー。地主恵亮さんのように、レジ袋一つで旅をするのが憧れらしいですが、さすがに何も持たないわけにはいかないよう。そこで、わたしの出番。持ち主さんの旅に、いつも寄り添っています。
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初めて連れ出された時のことは、今でも鮮明に覚えています。新しい世界への期待と、少しの緊張。持ち主さんが荷物を詰めていくのを見ていると、これから始まる冒険へのワクワク感が伝わってきました。
見た目はコンパクトなのに、収納力は抜群。500mlのペットボトルが縦に2本、横に3本は収まります。生地は適度なコシと重さがあるので、よっぽどの強風じゃない限り、フラップがめくれ上がる心配もありません。
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持ち主さんは、身体側のポケットに、旅先で手に入れたパンフレットや、メモ用の測量野帳とペンを入れ、ファスナー付きのポケットには、鍵や財布などの大切なものをしまっています。
旅をしていると、本当にいろいろなことがありました。電車やフェリーに乗ったり、自転車で知らない街を駆け抜けたり。時には土砂降りに見舞われてずぶ濡れになったり、猛吹雪に遭って真っ白になったり。
持ち主さんの肩にぶら下がりながら、いつも同じ景色を見ていました。角の部分は少しすれてきたけれど、わたしにとって勲章みたいなもの。
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和歌山県湯浅町 Yuasa 20161113
色あせた風合いも、ビンテージとは違うけれど、愛着の証しになっているみたい。使い込むほどに、わたしは持ち主さんの一部になっていったのです。
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須田帆布は、わたしたちを作って終わりではありません。もしわたしに何か不具合が起きたら、いつでも相談に乗ってくれるんです。経年劣化やほつれ、金具の破損などなど。心強いですよね。
一生ものって、こういうことなんだろうな、って思います。持ち主さんは、わたしのことを単なる物ではなく、旅の歴史、人生の断片を刻み込んだ、大切な宝物だと思ってくれているみたい。それが、何よりもうれしい。
持ち主さんと、生みの親の工房へ里帰りしたこともあります。東京に滞在していた持ち主さんが、須田帆布の工房に行ってみたいと言い出し、つくばエクスプレスにガタゴト揺られ、つくばまで行ったんです。
駅からレンタサイクルを借りて、5月の風を感じながら工房へ向かう持ち主さんは、とても気持ちよさそうでした。
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工房では、なんと生みの親である須田さんと再会することができました。突然の訪問にもかかわらず、温かく迎えてくださり、わたしの肩ひもの緩みなどを直してくださいました。
わたしは、おもいがけず実家に帰ることができ、温かい気持ちに。そして、持ち主さんが喜ぶ様子を見て、誇らしい気持ちになりました。
最近は、もっと軽いトートバッグを使うこともあるみたいだけど、持ち主さんにとって、特別な存在であり続けたい。これからも、旅の記憶を刻み込み、人生を運び続ける。それが、わたしの使命だと思っています。
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