見出し画像

古着と2つの勇気

今ではファッション誌の定番企画になった『ストリートスナップ』。
街を歩く、おしゃれな一般人の写真が掲載されている、あれである。

雑誌の名前は忘れてしまったが、確か20年くらい前に初めてみたのが『パリのストリートファッション特集』。
おしゃれな人が選ばれて掲載されているとはいえ、誰もが個性的でカッコよくて。
フランス人だからといって決してモデル体型の人ばかりではない。
ファッションも流行最先端のものばかりではなく、着込まれたリアルな日常着も多い。
それが素敵で新鮮な体験だった。

写真のキャプションに度々出てくる「これはヴィンテージショップで買ったもの」というコメントにも憧れた。
おしゃれで個性的な古着を着て、私も言えるものなら言ってみたい。
でもヴィンテージショップってどこにあるのか。
すでに下北沢とか高円寺にはあったと思うが、その頃の地方都市ではなかなかお目にかかれなかった。

そんな私がヴィンテージショップより先に足を踏み入れたのがブランドリサイクルショップ。
あの頃の私はトラッド路線からモード路線に切り替え中で、ブルックスやラルフをリサイクルショップに持ち込んでは買い取ってもらっていた。
最初は売るだけだった。
お金持ちだったわけではなく、古着を着る勇気がなかったのである。
買い取り査定を待つ間、『これ、いいなぁ』と思う服があっても買うことができない。
新しい服を次々と着替えることが存在証明のようになっていた高度経済成長時代の申し子には、他人が一度袖を通した服を着るというのはなかなか勇気がいったのである。

古着を買って着るのが平気になるのに数年かかったかもしれない。
その間に地方都市にもヴィンテージショップとまではいわないが、古着屋さんやリサイクルショップがあちこちに目に付くようになった。
よく言われることだけど、古着には他では見かけないデザインやテキスタイルの服がある。
平気になった今では、その1着を探すのが楽しみにもなっている。

そのくせ実は「その服、素敵ですね」と褒められて、「これ古着屋で買ったの」と平気で言えるようになったのはごくごく最近のこと。
「ヴィンテージショップで買ったの」なら言えるのか、いや言えない。
あれだけ「言いたい、かっこいい-」と思っていたのに。
この数年若い人の間で古着が流行し始めて、やっとどうにか言う勇気が持てた。

こうして振り返ってみると、着るのに勇気がいったり言葉にするのに勇気がいったり。
どうも古着というやつは、私の凝り固まった価値観を揺り動かしている存在のようである。
・・・・

古着屋さんで一目惚れしたヴィンテージ(正確にはグッドレギュラーかな)の柄シャツをリメイクして着ています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?