秋、早朝、奈良公園
まもなく夜が明ける。
午前7時40分。
向かいの山から光が漏れはじめた。
周りには数人のカメラマンたち。
手袋、帽子、ダウンコート。防寒もばっちりだ。
そしてご来光。この瞬間を待っていたとばかりに、広い公園にシャッター音が鳴り響く。
日の光を浴びて煌めく景色。
そう、これが見たかった。寒さなど忘れて夢中でシャッターを切る。
なんと幻想的だろうか。かつてないほどの美しい情景に打ちのめされる。
まだ眠そうな様子の鹿たちも、陽だまりを求めて、日向へとやってくる。
次第に解凍され、湯気が立ち昇る様もまた美しい。
そこはまるで映画の世界。光芒の中の威風堂々。
ふと振り返れば、目が合った。身じろぎもせず、佇む姿は哀愁を誘う。
あまりの美しさに、これは本物の世界なのか、わたしだけが見ている幻想ではないのか。そんな想いすら浮かぶ。
少し移動すると、まだまだ紅く染まったもみじたちが出迎えてくれて、秋を感じる。
鹿たちがちょうど良い場所を通ってくれることを祈っていたら、しっぽを噛まれながら通ってくれた。
紅葉の絨毯の中を、子鹿がのろのろと進む。
奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の
声聞く時ぞ秋は悲しき
思わず百人一首が浮かんだ。
日が完全に昇れば、青空と紅葉の対比が美しい。
秋の早朝の奈良公園。
寒さをこらえてじっと日の出を待つ。
日の出の先に待つもの、それは幻想的で儚くも美しい情景。
あぁ、過ぎたばかりだというのに。
もう、次の秋が待ち遠しい。
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