⑭ 出版の世界で、いきなりルッキズムを突き付けられた
小説家という仕事の中でも、ルッキズムはひしひしと感じている。
小説の新人賞を受賞したパーティの席で、「ルッキズムの洗礼」を受けた。原稿を送った際に、職業の欄に「観光案内業」と書いた。受賞のお知らせの電話がきたときに、「観光案内業って、具体的に何か」と問われた際に、「バスガイド」と答えた。
バスガイド……AVは官能小説の中では、ナースや女教師と共に、男性に夢を与えエロい妄想を抱かせる職業だ。実際は全くエロさなんてない仕事だけど。
私が「バスガイド」だということで、あとで聞くと男性たちは盛り上がっていたらしい。
そして授賞式の日、ある純文学の作家に、挨拶していきなり「がっかりした」と言われた。
要するに、「バスガイドだと聞いて、美人を想像していたのに、違った」ということだ。
驚いた。
え? これ、小説の新人賞のパーティですよね?作品じゃなくて、外見のこと、しかもそれ本人に伝える?
その作家は、「どうして着物じゃないの」とも言ってきた。いや、なんで着物きてこなくちゃいけないんだ。「女流作家=着物」のイメージなのか。つーか、作品じゃなくて、見かけしか興味がないのか。
その人は、メディアにも顔を出す、有名な作家だ。あとで、様々な人に聞くと、その作家は「美人が好き」らしい。新人作家が「若くて美人」だと、大変喜ばれるそうだ。
だからきっと、私はおめがねにかなわなくて失望されたのだろう。
私はあれからその作家の本を読んでいない。誰かがその作家を褒めていると、「でも、新人作家の容姿を見て、いきなり『がっかりした』とか言う人ですよ」と口にしたくなるのを、抑えている。
出版の世界でも、ルッキズムは強く存在するのだと、そのとき思い知らされた。
女の作家は、外見がよければ「美人作家」と喧伝され、グラビアのような写真を撮られる。本の帯にもPOPにも新聞広告にも顔が出る。
男性作家は「美男作家」なんて、言われないのに。
そして「美人作家」に、出版の世界の男性たちが、デレデレとしたり、態度を豹変させるのだって、何度も目にした。
本が売れないから、そりゃ美人とか若いとか、付加価値があるほうがいいのだろう。それは間違いない。「作品で勝負」するためには、手に取って読んでもらわないといけない。その手にとってもらえるきっかけのひとつが容姿や肩書であるのは、間違いない。
でも、「美人作家」といわれる人の、本を読みもしないで、ちやほや持ち上げる男性たちを眺めていると、気持ち悪くてムズムズする。書いているものではなく、容姿にだけのぼせ上がり称賛するのは、結局、女性蔑視ではないかとすら思う。
そして美人は、作品が良くても、「顔がいいからひいきされてる」という人たちも、出てきたり、嫉妬もされ傷つけようとする輩も湧いてくる。
「美人だから」セクハラ受けた人だって、知っている。セクハラした人は、私も知り合いだったけれど、私の前では全くそのような態度ではなかったのは、女として好みじゃなかったのだろう。私は「美人」ではないことで、傷つかずに済みはした。
ときどき、昔読んだ漫画の一コマを思い出す。
ある会社で働く「元気が取り柄のブス」の女の子が、同僚や先輩の男性の仕事を褒めると、職場の女性たちは「でも、あの人、女癖が悪いの」「女にだらしないから」となんだか嬉しそうに言ってくる。
でも、主人公の「ブス」は、純粋にその男性の仕事が好きで、一緒にやれてよかったなと思い、「あー、私、ブスでよかった!」と思うのだ。
ブスだから、男女のあれこれに巻き込まれず、仕事ができる、と。
そんな私も、実はデビューの頃は、「女」であることを、利用もした。
そもそもわざわざ「バスガイド」だなんて公表するのは、人の気をひいて、興味を持ってもらうためだ。ある男性週刊誌の取材を受けたとき、リクエストで、バスガイドの格好をしていった。「バスガイドさんはどんなセックスをするか」というようなインタビューだった。それで本が売れるわけがないが、デビューしたばかりで、とにかくメディアに宣伝してもらおうと必死だったので、受けた。
まあいいかと、写真撮影の際、ブラウスのボタンを外し、胸元を強調するショットも撮った。「女」であること、「バスガイド」という、興味をひく仕事であることを、私は思いっきり利用したのだ。
とはいえ、そんなことでは本は売れないのは、ひしひしと感じている。
一瞬、話題にはなるけれど、それだけだ。
先日、京都のタレント事務所に所属する関係で、新たにプロフィール写真を撮影した。
ヘアメイクをしてもらったが、ものすごく腕がいいスタジオだと聞いていたのだが、噂通りで、ちょっとびっくりするような美しい写真ができあがった。
それをSNSにUPすると、たくさんの「いいね」と、「美しい」というコメントがついた。
写真はヘアメイクと加工修正で、作られたものに過ぎない。
病気後の減量により痩せはしたから、昔よりは確かに見栄えはマシになっているかもしれない。
でも、結局、世の中ルッキズムなんだよなと、どこか冷めた目で眺めている自分がいた。
文章の世界でも、容姿がついてまわる。ならば最初から、顔を出さないほうが正解だったんじゃないかとは、たまに考えるが、今さら遅いので、どうにもならない。