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英読書会-夏目漱石「行人」

夏目漱石「行人」(1912-1913)読書会(2020/5/6)
参加者:英、TAさん、YTさん、YTさん、ATさん、YMさん
(今回は最大人数!)

●一郎はストイックすぎて、もしこんな人がいたら一緒には住みたくないと思う。その一方、信用できる人だとも思う。
●心に響いた部分をチェックしながら読んだ。前半はほとんど無かったが、最後のHさんの手紙のところはたくさんのチェックが。最後の一文がとても好き。
●前期の漱石作品は読んだことがあったが(三四郎、坊ちゃん、吾輩は猫である)、作風の違いに驚き。
●前半、これは何が始まるのか?(恋愛?ミステリー?など、引き込む要素が強い作品も多々ある中)なかなか意図がつかめない。グルーヴに素早く巻き込まれる感覚ではない。淡々としたもの。しかし、そういうものとして楽しむのだと知ると、すごい、と思える。
●兄嫁の直との嵐の一夜などドキドキするところも。当時は新聞連載で、エンターテイメントだっただろう。当時の人がどう思って読んだのかも知りたい。
●読むうちにようやく漱石の文体と「ギアが合ってきた」。戦後というバタバタした時代の作家、太宰治などは切り込みがスピーディーだが、それに比べるとジリジリとしている。
●近代的個人が意識されてゆく時代。それを、私的な空間である家族の中にも見ている。
●女性の描き方。個性ある個人として描かれているが、男性目線で俯瞰して見ているため、女性として共感はしにくい。
●一郎は漱石自身の悩みを託された存在。考えてからでないと行動に移せない人。それを自ら俯瞰して見ているよう。彼のような人には、家族とはまた違った、Hさんという友人のように、ある程度距離を持ちただ見守ってくれるような存在が救いになっているのかなと思う。
●現代の家族も、「閉じられている」。お互いが近過ぎて、踏み込み過ぎてしまう問題が。江戸時代などは、ちょっとした悩み事を御隠居のような距離感の他人に相談にいくようなオープンさがあった。落語にも出てくる(漱石も落語好きだったという)。漱石の、近代小説の父とも言われる所以が分かった気がする。
●Hさんの手紙に出てくる、一郎とHさんの会話内容は哲学的で理解は難しい。兄の本心はこうだったのか!と、単純に解決するものではない。それは、今で言う東大の哲学の先生の会話なので、哲学の素養がある人だから通じるものでもある。「所有する」概念の話はプラトンの文脈か。
●なぜHさんだけアルファベット?もしかしたらモデルとなる人がいて、分かる人には分かるのかも。
●下女だった「お貞さん」の存在。下女は漱石作品では背景ぐらいに出てくる場合と、登場人物としてフィーチャーされるものがある。前作「彼岸過迄」でも、主人公は下女に人間性として近しいものを感じる描写があった。今作のお貞さんは結婚の世話もされている、おそらく身内に近い層の人間。一郎のような超インテリも、もちろんご飯を食べなくてはならない。「生活」に根ざすところで関わってくるお貞さんの存在に生の実感が含まれている。
●一郎はお貞さんに結婚前に何かを語り、彼女は涙ぐむが、それが何を語ったかは明らかではない。が、最後のHさんとの旅行で一郎は、お貞さんの存在に善良さ、幸福を見ていたと言ったという。そこまで読んで初めて、一郎が結婚前の彼女に何を語ったのかを想像できる。今までのお礼なのか、結婚してもそのままでいて欲しいなのか、行って欲しくないのか、もしくは哲学的に厳しいことなのか?読む人それぞれの想像が、自分自身の願望を映し出すところ。
●なぜ、二郎は兄嫁と過ごした一連を兄に話さずに過ごしてしまったのか?一郎は本当は話して欲しかったのだから、話すべきであった。二郎の失敗であったところでは。
●二郎が下宿へと去る際、兄との思い出が去来するのは切ない。
●この母もだいぶやっかいだな。
●父と客が下手な謡曲を聞かせるところ少しコミカルで面白い。当時、こういう人がいたのだろう。無難な感想でしのぐ若者。
●兄嫁、直の存在が印象的。二郎との微妙な距離感。恋とはっきりしたものではないが、どこか特別なものを感じている。ドキドキシーンも(草枕、三四郎でも突然女性とのドキドキシーンが出てきたな)。終盤に二郎の下宿にやってきた直さんが少し吐き出す居辛さ。実家でも話さなかったことを少し分かちあえる存在。リアリティある。直の「男はどこでも行けて良い。女は言われたところへ動かされるのみ」という話にがつんと来る。それを二郎は「女性の強さ」と表現することには同意はしかねるが、当時の「それしかない諦め」でやっていくところもあったろう。嫁として一郎を支える期待をされるが、あの状態の一郎に対してなんとか平静にやっていくのはこれが精一杯。
●一郎は妻の態度に嫉妬しているというより、素直に生きた結果、二郎に愛情があるならいっそ自分を捨ててほしいと思っているのだろう。その歪な愛情と理想の矛盾は、痛々しい。
●この次が「こころ」ですよ!

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