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うつと生きる

 2021年、私は相変わらずうつの真っ只中だった。
 15歳。中学生の時から、うつだった。

 身体中が重い。両手足首に鉛がくくりつけられている様だった。全身がだるくて、身体を縦にしていられない。そして四六時中、眠い。

 高校生の頃から、ろくに学校に通うことが出来なかった。勉強が好きで進学校に通っていたのに、文字を追う集中力も無くなり勉強は全く出来なかった。通学で使う電車に飛び降りないようにすることだけで必死だった。
 幼少より本が何より好きで読書家だった。しかし、文字の意味を捉えることが出来なくなった。本を読むことが出来ない。これは何より辛い症状だった。

 それでも作家になりたかった。昔からの夢だった。うつなので、叶うとは思っていなかったが大阪芸術大学の文芸学科に入った。作家を志す生徒が集まっていた。もちろん通えなかった。退学した。

 その頃からずっと、たった1人で病院に通い投薬治療を続けていた。症状が辛くても2週に1回必ず精神科に通い、日に3回薬を飲んでいた。両親は精神疾患に理解が無かった。ずっと、学校をさぼっていると思われていた。私はずっと、勉強がしたかったのに。

 大学退学後、アルバイトも出来なくなり、ほとんど引きこもりになった。20代の間ずっと働くことも出来ず、実家のベッドで過ごしていた。
 過眠だった。夜、日付が変わるよりも随分前に寝ていた。しかし起床は、17時を過ぎた頃だった。24時間の内、20時間ほどをベッドで過ごす生活だった。
 病院に行って薬を飲んでいることだけが、私の唯一の救いだった。

 しかしその薬たちは、全くと言っていいほど効果が無かった。手を変え品を変え、あらゆる薬を試した。お陰で10年以上かかった。しかしそのどれもが、副作用ばかりで十分な効果は得られ無かった。

 「最後の手段があります」
医師が重く告げた。全身麻酔をして脳に電気ショックをする、そんな手術があると言った。昔は懲罰的に行われ、非常にイメージが悪く嫌がる人も多いと苦々しく教えられた。医師の中でも反対運動があるくらいらしい。
 「修正型なので、今は安全です」
この台詞も、何度も聞いた。全身麻酔をして意識はないし、筋弛緩薬も投与するのでけいれん発作は起こらない。稀に暴れてしまう人もいるため、両手足を手術台にくくりつける。麻酔科医と精神科医、2人の医師の監視の元安全に行われる。
 それでも、嫌がる人も多い。実際この話をした人は皆、怖そうだと口にする。実際、怖い。

 けれど私には、もっと怖いものがあった。うつだ。数々の症状の方がよっぽど怖かった。いつ死ぬか分からなかった。それほど常に、死にたかった。辛く、辛い毎日だった。
 「お願いします」
物々しく、両親まで呼ばれ説明された診察室で私は意を決して頼んだ。これが私の、大きな選択だった。

 2021年11月、12月。2ヶ月に渡って入院し、手術は10回行われた。週に2回の全身麻酔により頭痛などを引き起こした。前後の記憶障害も起きた。1度目の手術後には、パニック発作のような状態にもなった。恐怖など色々な負の感情に支配され、泣きじゃくった。普段めったに怒らない温厚な私が、医師に怒り騒ぎ立てた。

 しかし回数を重ねる度、私の症状は改善していった。驚くことに退院する頃には、夜に寝て朝起きる生活が出来るようになっていた。15年以上私を悩ませ続けた睡眠障害が、たった2ヶ月の入院で良くなったのだ。
 本当にその効果は素晴らしかった。いつの間にか死にたいという感情――希死念慮――も無くなり、晴れやかな気分にさえなっていた。起きていられる、これは本当に凄まじいことだ。何でも出来る。寝ていては、何も出来ない。起きてさえいれば、何だって出来るのだ。

 退院後、一端の生活が出来るようになった私は社会復帰のため、就労移行支援を調べた。そして就労移行支援事業所「はぐみワークス」に入所した。これもまた、大きな選択だった。
 はぐみワークスでは障害者雇用を含めた一般就労に加え、フリーランスを目指すことも出来る。様々な事情から仕事につけていない障害者が、就労に移行するための支援をしてくれる。

 うつで、引きこもりで、ニートだった私は自分の夢などとうに忘れていた。初めはとにかく、通うところさえあれば良かった。規則正しい生活をする。社会復帰をする。まずはそこからだった。
 しかしはぐみワークスでは、様々な手を使って私を前向きにしてくれた。自己啓発、自己理解、自己受容。私は徐々に、自分の人生を前向きに考えられる様になっていった。幼少期からの夢を思い出した。

 ああ、私は、作家になりたい。

 起きてさえいれば、何だって出来る。1日中寝ていては出来なかった。今私はKindleで3冊出版している。今週末にはマルシェイベントに出て、自身が制作した170ページの文庫エッセイ本を販売する。

 私は今、作家だ。

 うつで引きこもりでニートで寝たきりだった。1日のほとんどを横たわってベッドで過ごしていた。
 今は1人暮らしをして、週5で外に出て、作家をしている。

 あの時手術を決断して、自分に合った就労移行支援事業所を選択した。そのお陰で、夢に向かって歩めている。私よ、よくやった、ありがとう。


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英『はなぶさ』
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