伊豆の旅③

目の前に、刺身の船盛が並ぶ。
ここのホテルで夕食に出される刺身は最高に美味い。
新鮮で臭みがなく、身がやわらかい。
夫と向かい合わせに座り、お互いに風呂で温まった顔を見る。
しばらくすると一杯目のビールが運ばれてくる。
温もった体にビールは最高だろう。
さっそく乾杯して、頂く。
冷たさと、舌を弾く炭酸がたまらない。
ビールに苦味を感じなくなったのはいつからだろう。
甘みとコクが口の中に広がる。
そして刺身を頂く。
行きの電車で見かけた人の話などをしながら、このひとときだけは、辛かったことを忘れる。
結婚したばかりのとき、同じ場所で食事をしながら、これからもし子供が産まれたらなどと話し合った事を思い出す。
子供は欲しかった。
だけど、あの時の私は、少しだけ、このままふたりでいたいとも思った。
鮮明に、色褪せることなく思い出す。

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