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もくもく生活(3日目)

昨夜は本を読みながら寝落ちしていた。
おかげでものすごくよく眠れた。

身体にはまだ力が入らない。
点滴の内容量が減っているの見ると
力が抜けて吐き気がするし
刺さってるところがあまりにかわいそう
(そもそも注射が大の苦手)。
はやくご飯が食べたい。が、
念願のはずの朝ごはんが少し憂鬱に思うのは
患部が痛くて水を飲むことさえ一苦労だからだ
(かなりつらい)。

退院したら真っ先にホットケーキが美味しい
大好きな喫茶店に走ろうと思っていたのに
先が危ぶまれる(かなりつらい)。

久しぶりに鏡を見ると、そこにいたのは
顔色も悪く、覇気のないボロボロの私。
点滴のみの栄養で布団から一歩も出られずに
丸一日過ごしただけでこんなになってしまうのかとショックだったし、こんなときでも可愛くいられる人ってすごいなと感心した。

病院にいると、当たり前だが
おめかしをしている人がいない。
みんな自分の身体と向き合い闘っている。
取り繕う全てを置いた「素」の状態。
服屋、喫茶店、花屋
経験のある仕事どれをとっても
お客さん店員含めそんな姿は見たことがない。

例に倣って「素」でいるにも関わらず、私の本当ではないと感じる。表現としての身なりにかなり頼りきっていたのかもしれない。
声も出せない今、私が私たらしめるものはなにかを見つめ直しているところだ。

ー「自然なものよりも、作り上げた偽物の方がしっかりと物事を伝えられるということがある。」
(著・藤崎彩織『ねじねじ録』より)

艶やかで鉛のように重く、硬い泥団子を作るため、土の性質や水分量を分析し試行錯誤しながら毎日丁寧に磨き上げたあの頃のように、
揺るぎないものにするためには
何事も手をかけてやる必要がある。
脆すぎて、まったく手の焼ける心だが
心を入れる入れ物(身体)も含め
改めて大切にしようと思った。
(泥団子もそういえば、だんだん大きくなるうち
層のように重なり、強度も増し、多少のことでは壊れたりしないので あれはメンタル強化のロールプレイングだったのかもしれない。)

ー「優しさは運動したことによって得られる、
体力のようなもので出来ているのではないか」
(著・藤崎彩織『ねじねじ録』より)

朝食の時間。
いざご飯を目の前にするとあまりにも単純なので(わーい!!)と大歓喜。
わーい!!と口に出せないのが悲しいところ。
38時間ぶりの食事の献立は、
食パン、豚肉と青菜のお浸し、細かく切られた
黄桃のシロップ漬け、牛乳。
6枚切りくらいの食パンは個包装の袋に
入っていて、触ってみるとほんのり温かく
水蒸気の加減で重くしなやか。表面に冷たく固いマーガリンを塗りたくって食べた。やさしい甘さで歯がいらないほど柔らかかった(おいしかった)。
初日の夜ご飯でも出てきた青菜の正体はやっぱりわからなかった。一度冷凍され水っぽくなった青菜は風味も食感も最悪だが、この類の青菜を食べることは今後一切ないだろうから事あるごとにこの数日を思い出さなくて済みそうだ(おいしかった)。

ご飯も完食し、やっと点滴が外れた。
右の手の甲には痛々しい痕が残った(明日には消えていると思う)。
朝食の後は休む間も無く、頭痛と目眩が残るなかなんとか荷物をまとめ予定通り退院できた。祝。

ガラス張りの大きなエントランスへ向かうと
この勇敢な私を祝福するかのようにキラキラと包み込む日差し、まさに光のシャワー!
これぞ祝福のパレード!
蛹から羽化する蝶のような心地も束の間、
ビュウっと冷たい風は羽いっぱいに受け止めるはずの暖かさを吹き飛ばし、思わせぶりな日差しは出番を終え、ビルの陰にスゥと隠れた。
季節はすっかり冬になっていた。

一駅先で母と落ち合うと、頭痛と目眩そっちのけで目当ての喫茶店へ一目散に向かった。
(これを楽しみに乗り越えたも同然!!!
食欲おかえり!!!!)
この人気店に並ばずに入れるなんてほぼ奇跡、
おめでたい頭の私は(これも祝福だ〜!)なんて
喜びながら席に着いた。これまでに何度も読み込んだメニューをまた最初から最後まで読み終えたところで、いつもと同じミックスサンドとオムライスとホットケーキ、セットドリンクはミックスジュースを頼んだ。(フードは母と半分こ♡)
栄養どうこうよりもまずは一番好きな食べ物が食べたかった。丸一日何も食べられないだけでも
本当に本当に苦しかった(ダイエットとはわけが違う)。

これからいただく どの食事も今までよりずっと
ありがたく食べられる気がする。
おかげで、昨日手術し先ほど退院したばかりとは思えない行動力を手に入れ、母と買い物まで楽しんだ。(頭痛と目眩はやんわり残ったまま)

ランチの後は言われた通り午後の診察へ。
(手術した病院とかかりつけが違うので電車を乗り継ぐ必要があるけど、主治医は同じ)
術後ここで初めて喉の状態を見せてもらった。
声帯に長く棲みついていた小さな突起の姿はなく、お土産に赤い傷痕を残していた。

完全筆談生活、
ささやき声もだめよ!と釘を刺されている。
このままあと6日間も耐えられるだろうか、
うっかり鼻歌でも歌ってしまいそうだ。
歌えるまでにはあと1ヶ月もかかる、
ライブ復帰は一体いつになるだろうか。
いつでもいちばん近くにうたがある人生、来月になれば半年間もお預けくらっていることになる。その時を迎えたらどんなに嬉しいだろうか。
想い馳せるだけで既に涙が溢れそうだ。

この期間にかなり多くのことを学んだ。
過剰なまでに抱えていた不安もこんなもんかと
落ち着き、今は乗り越えた先の明るい未来が
楽しみで仕方がない(まさに、好きな人との待ち合わせに向かう電車に揺られながら、気持ちは新幹線級に猛スピードで走っている!みたいなもどかしい感じ)。

久しぶりに帰ってきた部屋はがらんとしていて
温もりこそないものの、やっぱりここは私のお城。変わりゆく季節を追いかけて明日は衣替えから始めよう。
病院よりもずっと静かでなんだか寂しい気もするけれど、もう絶対に戻らない。健康第一!
(3日間大変お世話になりました、感謝。)

ご自愛、ご自愛。

ー私のもくもく生活はまだまだ続く。

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