終演
彼女は、ぴかぴか光る木製の什器に感情を飾っていた。
完成された人間として振る舞うのを、俺はスコープ越しに眺める。
木目のタイルが敷かれ、什器だけがぽつりと残される簡素な部屋。棚の後ろには、不似合いなマンホールが埋まる。その奥底、俺は銃を肩にかけて地下道の滑る壁にもたれる。
見世物にできなかった感情は、この道に眠る。不都合とラベリングされた感情は、腹を空かせて彷徨う。彼女が置き去りにした奴等を撃ち抜いて、俺は腹を満たす。
俺の名を、俺は知らない。
前兆はなかった。
音もなく目の前を過ぎ去る黒い影。仕留め損なった奴はマンホールの小さな穴をすり抜けてフロアに立つ。彼女が必死で整えた感情を覆い、奴は泥をぶちまける。怒り、妬み。僻み。
部屋の外で雨が降り続く。
俺の獲物も数が増えた。
膨大に膨れ上がる奴等は、家のベッドで丸くなる彼女を喰った。什器には埃がたまり、磨かれていたはずのガラスは煤けた。彼女にはもう、完璧を演じる必要もなかった。
そうして終わりが来る。
入口のほど近くにいた俺の眼に止まりもしなかった、かつて感情だった異形。雪崩れるように怪物たちは迫る。
――こんな細身の銃で何ができる?
俺は所詮、ただの傭兵だ。
手をこまねいて世界の終わりを見届ける。
理性の敗北。
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お題「世界の終わり」(企画「土曜日の電球」より)