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こうめだせら
2019年9月23日 20:34
彼女が世界に置いてかれた日には、僕がシアターを組み立てる。 次の朝にはきっと雨が降る、そんな夜。 一枚の毛布と二枚の座布団。僕は季節外れの半纏を羽織り、瓦の上で待つ。傍らには、湯気を立たせるマグがひとつ。 街は、とっくに深い藍色の海に沈んでしまった。午前三時に残るのは、薄く色づく電灯と、ときおり響くエンジン音だけ。僕は灰色の雲のふちを視線でなぞり、今日の〝ひみつ〟を考える。僕と彼女の宇
2019年9月16日 00:26
連れられた路地裏は薄暗く、敷き詰められた水色のレンガは色味を無くしていた。繋いだ妹の手の温もりだけが生を残す。 母さんは僕にペンを、妹にまっさらなノートを渡して去った。「その先に、大人は入れないのよ」 嘘を言い残して。 あなたが振り返りもせずに消えたことを、僕は知っている。 路は急傾斜だった。 一分も下りると、真横を過ぎるものが変わる。団地を、教会を通り過ぎて、電灯の立ち並ぶ路を