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掌編

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2019年9月の記事一覧

幕間にはホットココアを

 彼女が世界に置いてかれた日には、僕がシアターを組み立てる。
 次の朝にはきっと雨が降る、そんな夜。
 一枚の毛布と二枚の座布団。僕は季節外れの半纏を羽織り、瓦の上で待つ。傍らには、湯気を立たせるマグがひとつ。
 
 街は、とっくに深い藍色の海に沈んでしまった。午前三時に残るのは、薄く色づく電灯と、ときおり響くエンジン音だけ。僕は灰色の雲のふちを視線でなぞり、今日の〝ひみつ〟を考える。僕と彼女の宇

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寂寥

 連れられた路地裏は薄暗く、敷き詰められた水色のレンガは色味を無くしていた。繋いだ妹の手の温もりだけが生を残す。
 母さんは僕にペンを、妹にまっさらなノートを渡して去った。
「その先に、大人は入れないのよ」
 嘘を言い残して。
 あなたが振り返りもせずに消えたことを、僕は知っている。
 
 路は急傾斜だった。
 一分も下りると、真横を過ぎるものが変わる。団地を、教会を通り過ぎて、電灯の立ち並ぶ路を

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