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掌編

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2019年8月の記事一覧

からっぽの音

 線路沿いを帰っていた。
 からから、からから。
 歩くたびに音がする。足元じゃなく、耳の奥。頭の中でラムネが跳ねているみたいだった。
「からっぽの音ですね」
 振り向けば幼い女の子が大きなビンを抱えていた。夜も深いのに、ひとりで。
 
 からから。
 からっぽの音というのは、たしかにそうかもしれない。きょうは、いつもより難しい問題をずっと考えていて、少しくたびれていた。
「あなたの音、ください」

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境界を引く

 
「時折、きみとおれが一つだったみたいな錯覚に陥るんだ」

 聞こえた声に、鉛筆を削る手を止めた。突拍子もないことを言った部長は、穏やかな顔で藍色の絵具を溶かしていく。
 
 夏休み初日の今日、朝から部室にいるのは自分たちだけだった。遠くに吹奏楽部が同じパートを延々と演奏するのが聞こえる。繰り返される一ヶ月と少しの幕開け。部屋は蒸すように暑い。部長が開け放った窓からは、ただただ生ぬるい風が入っ

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