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#1.ショートショート 「ブランコ」
神社に行くような木陰で覆われた急な坂道。
そこを登った先には僕が通っている小学校がある。
小学校には欅並み木があって、その木々には1つずつブランコが吊るされていた。ブランコは順々に短くなっていて、学年に応じて乗れるブランコが違うらしい。別に好きなブランコを乗れば良いと思うのだが、それを言ったら先生に怒られそうなので言うのをやめている。
このブランコはとても人気で昼休みや放課後にはいつもそこから笑い声が溢れていた。
そして、その木々の中でも一際大きくそびえ立つ木があった。それは校舎の屋上まで届くぐらいの大きな木で、その木とは対象的に吊るされているブランコはとても短く不自然なものだった。木登りがかなり上手な人じゃないと乗れないぐらい高い位置に吊るされているので、このブランコだけは誰も乗るどころか、見上げる人さえいなかった。
「なんでこんな長い木に、こんなにも短いブランコが…?」
僕はこれを乗っている人を見たことはないけれど、友達からは
「これは呪いのブランコって言ってね、これに乗った人はみんなこの小学校から転校するか、行方不明になるか、最悪の場合、死んじゃうんだって!」
なんて噂されていた。
トイレの花子さんしかり、理科室の歩く人体模型しかり。
小学生は何かとこ〜ゆ〜類の話をするのが大好きな生き物なのであくまで怪談話としてしか考えていなかった。
僕はいつもあそこに乗った人は風が気持ちよくてそこから見える景色はさぞかし綺麗なんだろうなと思ってはいたが何だか乗る気にはなれないでいた。
これは別に、怪談話を真に受けて怖くなっているからだとか、木登りが下手だから乗れないだとか、そんなヤワな理由で乗れていないのではなくなんだか不思議と自分自らは乗ろうとは思わなかったのだ。
放課後になって学校を後にし、坂を降りると霊柩車が同じ道を旋回していた。
これを遠い目で眺めているおじさんがいたので
「あれは何をしているのですか?」
と声をかけた。
すると、
「最近亡くなった男の子でね、歳はお前さんと変わらないぐらいかな。昔はいつも外で走くり回る元気な子だったんだけど、小学校に入学した頃ぐらいからかな。段々と大人しい子になっていってね。最近じゃ、いつも暗い顔して歩いていたのさ。何かあったんじゃないかと心配にはなっていたんだけど、まさかこんなことになるなんて…
あれはね、
みんなが、いつまでもあの子の事を忘れないようにって、あーして同じ途を回っているのさね。」
と言って、また、遠い目で霊柩車を眺めた。
その瞬間、はっと気付いた。
すぐに坂を駆け上がり学校に戻る。
すると、あのブランコからは楽しそうに乗っている小さな子供の姿があった。
その時僕は理解した。
あ〜、このブランコは
生きることを諦めた人達が乗るブランコだったんだと。
死にたいと望み、願う人達が乗るブランコだったんだと。
大丈夫。僕はまだ、強く。生きていけるーー。
僕の小学校には、一際目立つ大きな木とは対象的にとても短い不自然なブランコが吊るされている木があった。
その日、その不自然なブランコからは元気な男の子の笑い声がいつまでも乾いた運動場に響いていた。