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星の王子様に会った日 フランスRonchamp旅


24歳の誕生日の週末、建築アシスタントとして働いているロンドンからフランスロンシャンに行くことにした。フランス東部、スイスとの国境からは60キロほどの小さな小さな街である。

なぜロンシャンに行こうと思ったか。

ロンシャンには建築を志すものなら誰もが一度は感銘を受けるル・コルビジェの設計した、正式名称はNotre-Dame de Haut という(以下ロンシャンの礼拝堂と書く)、小さな礼拝堂がある。

後述するが、とにかくマスをここまで景観を味わえる状態のまま操れるのかと。こんなに精神を研ぎ澄まして何十年の後の祈りも美しいものにする建築があるのかと。心臓が空間で広がってまた折り畳まれるような、空まで広がる気がするのに静かに閉じていくような気がする、そんな空間だった。

私の心に新しい居場所ができた。新しい夢に、出会った、そんな旅の話をします。

1、早朝から巻き込まれたトラブル


そもそも早朝からトラブルが発生したのであった。

金曜日に仕事を終えて帰宅してから、3時間ほど寝て夜中の1時にバスに飛び乗る。

すると早朝4時にはGatwick(ロンドンには5つの国際空港がある)に到着する。この辺りどの工程も治安には注意したい。1度、金曜日夜中2時のバスで後ろに座っていた人がゲロを吐いて全てが終わりそうになったことがある。

Gatwickに着く。眠い。眠い。眠すぎてチェックイン後すぐこのヨギボーの親戚のようなソファで爆睡する。2時間くらい。私の朝のフライトまではまだ時間があった。

こういうのがある空港は私の味方である

2時間くらい寝る。目が覚める。

その頃には早朝便に乗る人たちが集まってきていて、私が着いた時より人がおおく、目が覚めると私は、「うわ! いっぱい外国人の人がいる!(寝ぼけている)」と思ったのだがどう考えても周りの人は,

「うわ! こんなところでアジア人の女が一人で寝ている!」

と思ったに違いない。

そして、ふと、

携帯を見たら、

”We are very sorry your flight has been canceled”の文字。笑わせてくれる。こういう時はどんなにSorryと言われてもその一瞬はたとえ格安航空券でもちょっぴり悔しいものである。

ありえんよ〜と思いながら次のフライトを見る。7時の予定だったのが10時のものがあったのでとりあえずそれを抑える。

スイスのBaselに飛んで、そこから電車に乗ってBelfort→Mulhouse→Ronchampとフランスに移動して、スイスに戻って空港泊の予定がこれではスイスに土曜日中に戻れない。

そんなことで急いでホテルを‥と思ったがRonchampは小さな街である。booking.comでホテルが三つしか見当たらない。

どうしよう‥

でもふと朝食付きの一つの部屋が気になりそこにした。小さな小屋が一つ、写真には写っていた。思い切って予約ボタンを押す。

その瞬間、

フランスの行ったこともない田舎で一泊できることが不思議とワクワクしてきて、飛行機がキャンセルになったのも何か神様のサインなのではと思いワクワクしてきた。

2, 雨の初スイス、Basel

初めてのスイス。

Basel-Mulhouse-Freibergと呼ばれるこちらの空港は名前からも分かる通りスイス、ドイツ、フランスが共同運営しており、例えば出口なんかもスイス側の出口フランス側の出口とあるのである。

スイス側の出口
フランス側

空港を出た途端に、トレイいっぱいにチーズを乗せたシェフのおじさんが歩いて行って、びっくりして息を呑んだ。

こんなのは成田を出たら侍がいたようなものだと思うのだがびっくりしすぎて写真は特にありません。

空港からてくてく街に向けて歩く。多分5、6キロだったと思うが毎日通勤で10キロ歩いているので特に何も思わない距離である。空港から街までの無骨な風景をさみしくてぶつぶつ独り言をしながら歩く。

バスを待つのが面倒でバスに乗らなかったのだが車はなぜだかひどい渋滞をしており、歩いた方がよほど速かった。

タクシーを降り歩き始めてしまう人たち


スイスでは時計は作れるのに車は作らないから渋滞をして、イギリスでは車は作るが時計はあまり作らないので結局遅刻するのでは‥という多方面に失礼な一説をポンと思いついたところで街が見えてきた。

(ちなみに世界のどこに行っても日本は車も時計も作れる素晴らしい国であるということは私の背筋を少し伸ばしたりする)

Baselというのはフランスとドイツの国境近くにまあまあ大きい街で、ライン川が街を二つに分ける。ちなみにライン川はLineではなくRhine川である。

川が見える


とにかく着いた時は雨が降っていて、自分が冒険のお供に持ってきた本とカメラを濡らしたくなくて自分を犠牲にしそれらを守った為自分はびしょびしょになりあまり記憶がない。

が、可愛いBasel市庁舎、マーケットのチーズたちを載せておきます。

市庁舎
トラムが走る街並み
チーズ

フランスに足を進めるためにとりあえず駅で腹ごしらえ。ドイツも近いしソーセージとビールをいただいた。こんなに大きいソーセージだがとても美味しく飽きずに食べられる。硬くてあまり香りのしないパンが、ちょうど良い。ビールは水のように飲めます。

英語とドイツ語とフランス語をちゃっちゃか操るくるくる巻き毛の髪の毛を縛ったお兄さんが丁寧に対応してくれた。多言語がこれだけ操れるってなんてセクシーなんだろうと思う。何より人生がどれだけ豊かになるだろう。

私も英語の脚を止めないのはもちろん引き続きフランス語頑張りたい。

この駅舎が大変素敵。


3、夢だった、星の王子様とフランスの田舎を電車で駆ける

電車に乗り込む。まずはMulhouseに行く。ロンシャンに行くのが難しいのは、その都市からの遠さと、そしてそこに主要な観光地がほぼロンシャンの礼拝堂しかないことであるが、

私はそのただ一つの礼拝堂を拝むことにロマンを感じるタイプなので道中の乗り継ぎなどはエンタメのうちである。

星の王子様をパラパラとめくる。上司が貸してくれたコルビジェの本もめくる。

王子様が私の隣にいるみたい。列車だけど空を飛んでいるみたい。本当に幸せ。フランスの田舎を電車で駆け抜ける。やっぱりこうして色や空気ごと感じるのがフランスの愛し方と気づく。

Belfort
国旗を見るとLa Marseillaisを歌いたくなる(冒頭しかわからない)

さて。ここからはウーバーである。30分ほどなのであまり高くなかったし、宿の目の前(つまりただの森)まで連れて行ってくれるのでよかった。

ロンシャンの、小さな街に、近づく車。沈んでいく夕日が、なんで美しいんだろう。フランスの人が、夕陽に似合う色を、空に着せたようである。

4、可愛すぎる宿 私と王子の小屋

そうしてたどり着いた宿がこれである。

可愛すぎる。小屋の中には小さなベットとシンク、机があって、別の建物にシャワーとお手洗いがあった。

キッチンなどのある方。

夜、一人で満天の星を眺める。寒くて寒くて、でも、不思議と心は幸せでいっぱいで。

憧れの地で、憧れの本を抱きしめて、震えながら夢のような星空を見上げる。

星の王子様はいる。そう思った。私と星以外何もないのに、こんなに幸せなんだもの。

やっぱり大切なものは、目に見えないんだ。Asteroid B612もきっとこの無数の星のうちのどれかなんだ。王子も、王子が愛した薔薇も、この宇宙のどこかに、絶対にあるんだと思った。

6、一生忘れられない朝 最高のフランスパンと優しいマダム 

朝。フランスの田舎で目覚められる贅沢。嬉しくて早起きして本を読む。

マダムが8時に朝食を置いておくね!と言ってくれた通りに、8時に暖かいコーヒーとパンオショコラ、バゲットが丸々一本置かれていた。

このバゲットはジャムとバターを挟ませてもらってのちに私のお昼ご飯になる

ありがたすぎてマダムに置き手紙。この最高の宿、一泊日本円にして一万円ほどであった。得られる美しさ、美味しさ、幸福度に対してあまりにもコスパが良すぎる。

ちなみに宿のマダムはリヨン(星の王子様の作者、サン=テグジュペリの出身地)出身だそうで私が王子を描き込んだこの置き手紙をすごく喜んでくれた。

そしてそのマダムが、なんとロンシャンの礼拝堂まで車で送ってくれると言う。日曜は狩りをしている人がいで危ないのだそう。丘の上まではちょっとした山登りを覚悟していたのでとても助かった。

7、ロンシャンの礼拝堂 神の遊び

そしていよいよ‥

このために、旅したの。

一目あなたに会いたくて、バーゼルでびしょびしょになったり空港で7時間時間を潰したりしたのよ‥

ああ、すごい。

重いのに軽くて、優しいのに強くて、

ロンシャンの街、フランスの自然の祈りが自然とここに集まる。

パイロットであり詩人であったサン=テグジュペリと同じように機械の時代の到来をコンクリート、大胆で機能的なマスで表現したコルビジェである。彼の作品群の中でも遅くに作られたこちらの教会は本来のコルビジェ作品よりももう少し曲線の多いオーガニックな雰囲気が感じ取れる。

屋根はまるで飛行機の翼である。飛び立ちそうなのに、大地にしっかりと立っている。

内部スケッチ
外部スケッチ

中も素晴らしいのであるが写真は撮影できないことになっているので、気になる方は調べてみてください。

傾斜が正面に向かってついていて、人々の祈りがマリア様にあつまる。日曜日だったので礼拝のために人が集まっていた。

本当に素晴らしかった。 

ビジターセンターはレンゾピアノ設計である

山を降りて(これを知らない通りすがりのマダムが「駅まで行くの?乗りな?」と車に乗せてくれた)街を少し歩く。

すごく神様に近い町だ。こんなに小さい。空いているレストランも一つしか見つからない。ほとんど誰ともすれ違わない。もちろん唯一あるRonchamp駅は無人駅である。

でも一生忘れない。きっとまた来る。心の中に、また、美しい居場所が増えた。

何があっても、ロンシャンを思い浮かべれば、ブダペストを思い浮かべれば、グエル公園を思い浮かべれば、

私にはそんな場所がたくさんある。

生きてきてよかった、そう自分に、そしていつかは誰かに思わせる、

そんな生き方をしたい、大切なものは、目に見えないから、心の中に、こう言う美しさがあると、留めておかないとね。

素敵だった。いい24歳の幕開けです。

もっと過去の旅の話も書かなくちゃ。

👋🌟

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