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Ctrl。



あの日も、そう。
こんな風に。


通り雨だった。













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+C。


下から見上げた、傘の色。
放射状に伸びる、骨組みの先。


騒がしく鳴り散らす雨音の下。
伺い見た、横顔。


ひとつしかない傘、分け合って。
歩いた雨の記憶。


滴る雨、距離近づけども。


所詮。







通り雨。






ここだけ選んで、記憶した。


あとは全部。


delete。













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+X。


忘れたいこと。
削除するけど、一時記憶。
少しだけ、とっておきたいの。


傘持つ手だけ、雨に冷えた。
触れ合う肩には、温みがあった。


そう、少しだけ。









とっておきたいだけ。













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+V。


憶えておきたいこと。


どこへ行った。何をした。
何度会えた。何度、愛の言葉を、
投げ合ったかよりも。









こんなにも、愛した人がいたこと。









書き足すの。


いや、むしろ。
大胆に、書き換えようか。


他の想い出をすべて、消して。


これだけ。
たったひとつだけ。


抱きしめて、歩けたら…















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+A。


あなたにまつわるあれこれ。
全部選ぶの。
何かで書き換えたり、しないわ。


delete するの。


サヨウナラ。


+Zは、使わない。
白紙にして、+S。


あなたの名前だけ、とっておく。


もう、戻らないよ。


夏の通り雨はもう、
別れを嘆く蝉の鳴き声と、
儚い風鈴の音色を、残して。


足早に去っていった。









戻らない。


もう、戻らないよ。










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何も、持っていない。
突然の雨に、立ち尽くす。


こどもじゃないから。
泣いたりしない。














あの日も、そう。
こんな風に。


通り雨だった。














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#2020年夏の創作


秋さん

またまたステキな企画をありがとうございます。

この作品が短編小説かと言われると微妙な作風かもわかりません。エッセイともつきません。読み手にお任せします。いつも通り【言葉の海】における創作になります。趣旨に反するかもと思いましたが、断りなくタグをつけさせていただきました。

尚、コンテストは専ら読ませていただいて、小説と銘打って日ごろ鍛錬されている方々、そしてエッセイを書き綴られている方々の、応援をさせていただければと思います。

また素晴らしい小説、エッセイを読めることを楽しみにしています。
コンテスト開催翌日。盛り上げたい氣持ちで、敬意を込めて。









flag *** hana




今日もありがとうございます♡






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