Ctrl。
あの日も、そう。
こんな風に。
通り雨だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
+C。
下から見上げた、傘の色。
放射状に伸びる、骨組みの先。
騒がしく鳴り散らす雨音の下。
伺い見た、横顔。
ひとつしかない傘、分け合って。
歩いた雨の記憶。
滴る雨、距離近づけども。
所詮。
通り雨。
ここだけ選んで、記憶した。
あとは全部。
delete。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
+X。
忘れたいこと。
削除するけど、一時記憶。
少しだけ、とっておきたいの。
傘持つ手だけ、雨に冷えた。
触れ合う肩には、温みがあった。
そう、少しだけ。
とっておきたいだけ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
+V。
憶えておきたいこと。
どこへ行った。何をした。
何度会えた。何度、愛の言葉を、
投げ合ったかよりも。
こんなにも、愛した人がいたこと。
書き足すの。
いや、むしろ。
大胆に、書き換えようか。
他の想い出をすべて、消して。
これだけ。
たったひとつだけ。
抱きしめて、歩けたら…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
+A。
あなたにまつわるあれこれ。
全部選ぶの。
何かで書き換えたり、しないわ。
delete するの。
サヨウナラ。
+Zは、使わない。
白紙にして、+S。
あなたの名前だけ、とっておく。
もう、戻らないよ。
夏の通り雨はもう、
別れを嘆く蝉の鳴き声と、
儚い風鈴の音色を、残して。
足早に去っていった。
戻らない。
もう、戻らないよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
何も、持っていない。
突然の雨に、立ち尽くす。
こどもじゃないから。
泣いたりしない。
あの日も、そう。
こんな風に。
通り雨だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
#2020年夏の創作
秋さん
またまたステキな企画をありがとうございます。
この作品が短編小説かと言われると微妙な作風かもわかりません。エッセイともつきません。読み手にお任せします。いつも通り【言葉の海】における創作になります。趣旨に反するかもと思いましたが、断りなくタグをつけさせていただきました。
尚、コンテストは専ら読ませていただいて、小説と銘打って日ごろ鍛錬されている方々、そしてエッセイを書き綴られている方々の、応援をさせていただければと思います。
また素晴らしい小説、エッセイを読めることを楽しみにしています。
コンテスト開催翌日。盛り上げたい氣持ちで、敬意を込めて。
flag *** hana
今日もありがとうございます♡