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犬王語り(1)獣の所作から人へ 犬王と百鬼丸

ネタバレあり 多分何回か書くので(1)と付けた。
話題になっていた犬王がアマプラで配信されていたので視聴。
先に言っておくと傑作。迷っている人は迷わず観たほうが良い。
でも、ミュージカル映画が苦手な人にはオススメできないかも。
かと言って、ミュージカル映画観慣れている人は、引っかかるところがあるかもという変わった映画。

https://inuoh-anime.com/


猿楽の一座に生まれ落ちた犬王。異様に長く巨大な腕、目のある場所に目はなく、瓢箪の面で顔を隠している。背中には鱗、その姿は物の怪で周囲に蔑まれて生きている。
盲目の琵琶法師の友一(友魚)。元は漁師の息子で父親が壇ノ浦に沈んだ宝剣を引き上げようとした時に父親は宝剣の神力で死に、友魚は光を失った。
その後、当道座に引き取られ名を友一と改めた。
2人は荒れ果てた京の都で出会い、新しい芸の道を極めるために共に走り出す。
犬王の父は自分の願いを叶えるために、胎児の犬王に願をかけ歪な姿に変える。
友一の父親も金のために、友一を伴って海に潜り、盲目になる。
2人とも父親の因果に人生を変えられてしまうのだ。
犬王の姿は化け物だが、新しく舞を覚えて芸が高みに達すると身体の一部が普通の人間に戻る。
手塚治虫ファンなら気付くと思うが、これは「どろろ」の登場人物百鬼丸と似ている。
百鬼丸の父醍醐景光も天下を108体の魔物に願って、赤子の百鬼丸の身体を捧げた。
百鬼丸は魔物を一匹倒すごとに身体を取り返す。
この映画も、そこを意識しており、犬王の声優はアヴちゃん。
アヴちゃんはアニメどろろの主題歌「火炎」を歌っている。



芸能人や歌手が声優に起用されると身構えてしまう人がいるが、アヴちゃんは完全に犬王。
アヴちゃんしか考えられないくらいハマり役である。劇中の歌だけではなく、そこに犬王がいると思えるだろう。

百鬼丸は魔物退治をするから身体が戻ってくるのはわかりやすいが、犬王は何故戻ってくるのだろう。
犬王にかけられた願い、呪いは平家の語られなかった物語が舞や歌で世に出されること。
犬王が舞うことで歴史に残らなかった人々の思いが成仏していくのだ。
犬王の舞いは、はじめは荒々しいが、人の姿を取り戻す度に洗練されていく。
獣の頃の犬王は大掛かりな舞台と演出で獣のように歌い踊り狂って大衆を熱狂させるのだが、人の姿を取り戻すにつれて洗練され、自らの表現だけで独自の世界観を構築し、神事のようになっていく。
正直、俺は獣の頃のほうが好き(笑)
これは「あのバンド。若い頃のほうが好きだったなぁ。今は大きなイベントで君が代を歌うくらいえらくなっちゃって……」の感覚に似ているが、意図的にやっているのがわかる。

一応説明しておくと、犬王は能楽の世阿弥に影響を与えたと言われた実在の人物なので、大衆文化だったものが伝統芸能になっていく様を見ているような気持ちになれる。
犬王が人の姿を取り戻すにつれて、友一は芸事の深みにハマって抜け出せなくなってしまう。
次回は友一の名前について書きたいと思う。途中、別のこと書くかもしれないけど(犬王のこと書くの魂削れるので)


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