もしもタイムマシーンができたなら
もしもタイムマシーンができたなら
僕は高校生時代に戻りたい。
僕の高校生活はそれはもう充実した楽しいもので、1年生の文化祭以降は、絵に書いたような群像劇の日々でした。
電車通学の僕は、友達と少し違った通学経路で、それも相まって1年生の秋までは、友達が少なく、いいや、少ないと言うよりも、いたのですが、上辺だけの関係性でした。
高校1年生の文化祭
恐らく、ここが所謂人生のターニングポイントの1つでした。
学校なんていつでも辞めてしまえばいい。
スーパーのバイトをしながら、ある程度のお金を貯めて、どこか現場のお仕事でも探してみよう。
そんな気持ちを持ったのは、やはり思い描いた高校生活を、当時送ることが出来ていなかったからなのかもしれません。
しかし僕の高校生活は、たった1日の放課後の出来事で、ガラッと変化しました。
例えるなら、文明の発達していないアフリカの奥地でずっと生活していた人が、ある日突然目を覚ますと、ニューヨークのタイムズスクエアのど真ん中に立っているような。
もっと身近に例えるなら、ずっと教室の隅で1人本を読んで過ごしていた人が、ある日突然誰もができずにいた事を、多くの人の前で想定以上の出来でやってのけ、その後ヒーローのように煽てられるような。
今、第三者の目線で見ると、あれは紛れもなく、ヒーローだったのかもしれませんね。
たった1日の出来事。
たった放課後の、それも2分ほどの出来事で、人の人生は意外と簡単に変われるものなのです。
それは自分が変わったのか。周りが変わったのか。
今でも定かではありません。
自信が無いから。
しかし強いて言うならば、自分が変わる努力をすれば、周囲もその成果を認め、変わってくれることも時にはあるのでしょうね。
何も無い
空っぽの自分
どうしようもなく、空虚に生きて、ただ生活のために、心配をかけないように、生きてきた。
しかし、人の転機は意外な所に転がっているもので
僕の場合それが〝アイドル〟と〝1年生男子〟という事だったのでしょうか。
毎日通学時に、入学して間もなく発売された、AKB48の〝神曲たち〟というアルバムを電車の中で聞きながら学校に通っていました。
曲は、RIVER、Baby!Baby!Baby!、大声ダイヤモンド、君のことが好きだから、初日、10年桜、何曲か飛ばしてから言い訳Maybe
そこに新曲がリリースされると、その曲を織り交ぜて
とにかくその当時の僕は、一日のかなりの時間をAKB48に費やしていました。
朝のアラームもAKB
アラームと同時に曲が流れ、そこから見よう見まねで覚えたダンスを踊るんですね。
すると目覚めがとても良い。
そこで言い訳Maybe、10年桜、大声ダイヤモンド、ポニーテールとシュシュ、ヘビーローテーションの振り付けは完璧に覚えましたね。
言い訳Maybe、10年桜、ポニーテールとシュシュは今でも完璧に覚えています。
僕の転機はポニーテールとシュシュのおかげで
僕が高校1年生の時
僕の母校はその年が最後の2日間文化祭を行える年となりました。
1日目の放課後
母校では当時、中夜祭なるものが開催されていました。
僕が2年の時から中夜祭さ前夜祭というものに変わったのですが
その中夜祭で、色々な企画を生徒会や文化祭実行委員の方々が行われていて
僕は学校を辞めるかどうするか、日々迷い考える日々が続いていたので、勿論そんなイベント眼中に無く、開催していることも知る余地もない程でした。
しかし感謝すべきでしょうか、ひょんな事がきっかけでそのイベントに、途中から見学することになったのです。
そしてイントロクイズ
イントロドン
という名の、クイズだったのですが
兎角説明も不要かと思いますが、ご存知の通り、イントロが流れ、最初に曲名を当てた人が勝者となるゲームでして。
僕が見学しに行った時は実行委員の方々が舞台上で何やらフリートークをされていて。
「それでイントロどうぞ!」
という掛け声が響いたのですな。
大勢の生徒の1番後ろで、三角座りで見ていた僕は、周囲の熱など意に介さず、ただ欠伸をしながら熱を帯びたリア充を見ていた訳なのです。
僕の中夜祭はこのまま終わるものだと思っていたのです。
そう思っていたのですが
無意識の内に
イントロが流れるやいなや
恐らく1秒以内のことでしょう
右手を挙げていたのです。
驚くほどの速さに、中庭に集まっていた人達は勿論、校舎の窓から見ていた大勢の生徒の目が僕に集まったのです。
1番後ろで、地面に三角座りをした、1年の男子生徒に。
口が勝手に開いておりました。
「ポニーテールとシュシュ!!!!!」
今でもあの日のことは完璧に覚えています。
もう、10年以上も前のことです。
恐ろしいスピードと正解
周囲のどよめき
やってしまった
顔がどんどん下を向き、地面と睨み合いそうになった時
舞台上から「舞台に上がってください!」
と、実行委員の会長から言われるではありませんか。
恐ろしい緊張を抱え、群衆の作る花道を歩き、舞台に上がりました。
「名前と、学年を」
無論、直ぐに答えました。
大変恥ずかしく、顔を赤らめていました。
すると
「それでは、歌いながら踊れたら!」
何たる不覚
歌えだと…踊れだと…
ポニーテールとシュシュのピアノイントロが流れだし
周囲を見渡すとみなの注目を浴びているではありませんか。
逃げたい
でも
でも
千載一遇のチャンス
なぜなら僕は
日々の鍛錬の賜物として
ポニーテールとシュシュは歌もダンスも完コピ(完全コピー)していたからです。
歌い、踊り、サビが来て
周りを見渡せば大きな、大きな、黄色い歓声が鳴り響き
ついに歌い終わると、今までに見た事のない光景が、僕の眼前にありました。
舞台を降りると、先輩同期関係なく、それはもう多くの人が声をかけてくれるではありませんか。
翌日、駅を降り
学校に向かいながら、昨日の光景を心に刻み、良い思い出が作れた
そう思いながら学校を目指しました。
しかし、それは良い思い出に留まらず、学校に着くや否や、多くの先輩方が僕を待ち、声をかけ、まるで昨日のように、いいや、昨日よりも多くの喜びを頂きました。
大きな理由もなく学校を辞めるということは、そこで青春を捨てるということで
まんまとスポットライト症候群の虜になってしまいました。
かくして僕は、ヒーローとなり、漫画のような、小説のような、7年間の群像劇を歩むこととなったのです。
このお話の続き、また深い内容は、いつか気が向いた時にでも。
※このお話はノンフィクションです。
※僕が主人公として体験した、類を見ない、群像劇。