「本当に感動するサービス」ってなんだろう? 立ち止まって考えてみた。
最近ずっと「感動するサービスってなんだろう?」ということについて考えています。
NOT A HOTELで最高の体験をしてもらうには、そこでのサービスも最高のものにしたい。では、どういうサービスだと感動してもらえるのか? 僕らに求められているサービスはなんなのだろうか?
そこを突き詰めて考えています。
さりげないサービスが心地いい
先日、修善寺の名旅館「あさば」に行きました。僕が老舗の旅館のなかで日本一じゃないかなと思っている宿です。
そこのサービスがすごく心地よかったんですよね。
なにがいいかというと「お客さんとの距離感」が絶妙なんです。べったりしていない。いい意味でほっといてくれる。そこがやっぱり心地いいんです。
フロントで旅館の説明をしてくれてお茶とお菓子を出してくれて……という「おもてなし」をしてくれる旅館もありますが僕は1秒でも早く部屋でくつろぎたい派です。あさばさんは、そういうお客さんの思いを汲み取ってくれるんです。
いい旅館やホテルほど、わざとらしくなく、さりげないサービスをしてくれます。押し付けがましくなく、存在を感じさせないくらい自然なのです。「あのお客さまは〇〇が苦手」とか「こんな持病をお持ちだ」とか、お客さんの情報をきちんと把握しつつも「知ってるふう」は出しません。
そういえば、もうひとつ感動したのは「シーツ下の薄い敷き布団」です。あまりにも寝心地がいいので旅館の方にメーカー名を聞き、あとで問い合わせると、なんと百万円近くするもの。。普段はシーツの下に隠れて、誰も気づかないものに投資をする。そこに本当のおもてなしを見た気がしました。
見えない部分へのこだわり、感じさせないくらいの空気の読み方、距離の取り方。そういうさりげないサービスは、振り返ってみて「いいサービスだったな」と思うんです。
優秀なホテリエを1000人集められるか
世の中には優秀なホテリエがいます。
彼ら彼女らは「察する力」がスペシャルです。
豊富な経験があるので「いまお客さまはこういうことを求めている」「いまお客さまは距離を置いてほしいと思っている」といったことを勘で察することができます。
僕は思いました。
最高のサービスを提供するために、経験豊富で優秀なホテリエに来てもらおうかーー、と。
ただひとつ困ったことがあるな、とも思いました。
それは「そんなに優秀なホテリエを100人も200人も集められるのだろうか?」ということでした。
たとえば僕らが帝国ホテルのように「最高のホテル」をいくつか運営するだけなら、究極のホテリエに来てもらえばいいでしょう。その人の経験に頼れば、最高のサービスを提供してくれるはずです。
でも、NOT A HOTELが目指しているのは「世界中にNOT A HOTELがある」という世界です。ゆくゆくは「すべての人にNOT A HOTELを提供したい」と本気で思っています。
そのときに優秀な人に頼ることでカバーできるのか……。
当然ながら、超スペシャリストが世界中のNOT A HOTELを同時に見ることはできません。100人、200人、1000人のスペシャルな人材を集めたり、育てることはちょっと現実的ではない。
無理に提供しようとするとサービスの質にバラつきが出てしまいます。それでは、本当に感動するサービスは提供できません。
前回も書きましたが、NOT A HOTELが提供したいのは「超ワクワク」です。「ふつうのワクワク」ではない。世に出す基準は「人が感動するレベルの"超ワクワク"かどうか?」です。
その基準で考えて「NOT A HOTELのサービス」はどうあるべきなのか? 僕らに本当に求められているものはなんなのか?
あらためて考える必要がありました。
テクノロジーの進化によるサービスの進化
僕は昔、地元の服屋さんで接客のアルバイトをしていました。
お客さんとして接客を受けることも好きでした。「これお似合いですよ」とか「あ、それ僕も持ってます」みたいなやりとりが楽しかったんですね。
でも、時代は流れてオンラインで服が買えるようになると「あ、こっちのほうが便利じゃん」とやっぱり思うようになりました。
これって、どっちがいいとか悪いとかではなくて、「テクノロジーの進化によるサービスの進化」だと思うんです。
接客を受けるのも楽しいけれど、オンラインであれば、いろんな人のコーディネートを見られるし、家でゆっくり考えることもできる。おまけに注文したら1日とかで届いたりするわけです。
やっぱりこの快適さ、便利さには勝てない。こういうことがいろんな業界で起こっています。
ホテルのロビーが豪華になっているのは「お客さんを待たせるから」と聞いたことがあります。チェックイン、チェックアウトのときにお待たせするから、快適に過ごしてもらうために豪華になっている。
ただそこがオンラインでチェックインできるなら、お待たせすることもなくなります。すると豪華なロビーもなくてよくなるかもしれない。
これも「テクノロジーの進化によるサービスの進化」と言えます。
ロビーは一例ですが、そんなふうにホテルサービスの領域も最先端のテクノロジーによってまだまだ進化させられるかもしれない。
そして「それこそが僕らに求められていることかもしれない」という思いにたどり着いたのです。
感動するサービスを「標準化」する
ここで僕らNOT A HOTELが目指そうとしている「いいサービス」のイメージを共有させてください。
ちょっと想像してみてほしいんです。
まず、チェックインはスマホでワンタップです。部屋に入ると、水もタオルもつねに豊富に揃っています。携帯の充電器など必要になりそうなものはフロントに問い合わせなくても常備されています。
部屋には「小さなコンビニ」もあります。そこで飲みものや軽食などはすぐに手に入ります。(チラ見せすると、こんな感じで「自社開発」しています笑)
部屋には業務用の加湿器が組み込んであるので、手元のコントローラーで湿度もコントロールできます。これで加湿器をフロントに借りにいく必要もなくなります。
テクノロジーで解決できるところは解決する。「最初からあればいいのに」というものは標準装備する。
僕らなりに「いいサービス」を突き詰めていった結果、こういったテクノロジーを駆使した標準化に行き着きました。これが僕らの考える「テクノロジーの進化によるサービスの進化」なのです。
いい建築、いいテクノロジー、いい食事
さらに僕は考えました。
「じゃあ、人ができる最高のサービスってなんだろう?」
行き着いたのが「食事」でした。先日とある著名人から「食事は最後に残るアナログな行為」という言葉を聞いてそのとおりだなと思いました。
最高の建築、最高のテクノロジー、そこに「最高の食事」が組み合わされば、感動レベルの体験をしてもらえるはずだと。
そこでひとつの決断をしました。
それは、NOT A HOTELの運営を担う「NOT A HOTEL MANAGEMENT」という会社の代表を「シェフ」にお願いするということです。
新しく代表となるのは林亮治さん。もともと「茶禅華」という三つ星レストランの経営をされていて(現在は川田智也シェフに譲渡)、いまは六本木にある中国料理店「桃仙閣」をはじめ、複数の飲食店をやられています。
林さんは「お客さまに感動してもらうにはどうしたらいいか?」「どうすれば最高のおもてなしができるのか?」を長年考え、実践してきた方です。
彼がすごいのは「心の中を読まれてるんじゃないか」というくらい察する能力があるところです。気の利き方が尋常じゃない。それも「気が利くなあ」とは思わせないで、普通にさらっとやるからすごく居心地がいいんです。
最高のレストランを手がけてこられた方と「感動するサービス」を追求していけることがめちゃくちゃ楽しみです。
「選べないストレス」をなくしたい
感動するサービスってなんだろう? 感動する食事ってなんだろう?
まだまだ模索する日々ではありますが、ひとつ実現させたいのは「選べる」サービスにしたいということです。
僕自身、ホテルに泊まって気になるのが「選べない」という部分です。多くのホテルでは食事の時間や内容があらかじめ決まっていますよね。
夜は「20時までに来てください」とか、朝食だと「10時までには入店してください」とか。内容も、コースだったり懐石だったりして、豪華なのはすごくうれしいのですが、それが続くと「たまには違うものも食べたいな」と思ってしまいます。
でも、いい宿って「今日はナポリタンにしましょうか」とか「カレーにしましょうか」といって変えてくれるんです。お客さんの気分に合わせて好きなものを作ってくれる。
「選べる」サービスはやっぱり感動します。
NOT A HOTELもそうやって極限までお客さんの気持ちに合わせられるようにしたいと思っているんです。
僕らは「NOT」 A HOTELだった
感動するサービスを突き詰めていった結果、行き着いたのが「テクノロジーを使ったサービスの標準化」でした。
そして「人にしかできない究極のサービス」ってなんだろうと考えていったら「食」にたどり着いたというわけです。
僕らは、今後「ホテルサービス」の概念も変えていきたいと思っています。
これまでは「ホテルサービスの一部が食事」という位置づけでした。そうではなく、ホテルサービスを極限までテクノロジーで標準化し、全体のクオリティを上げたうえで、人的なリソースを「食」に特化して、最高のサービスを提供したいと考えているのです。
僕らはどんなサービスを提供すべきなのか? ずっと暗中模索の日々でした。僕らに求められていることを見失ってしまう瞬間は何度もありました。
しかし、このことを思い出したんです。
「僕らがやりたいのは、ふつうのHOTELじゃなかったはずだ。僕らがやりたいのは"NOT" A HOTELだったんだ」って。
これからも「超ワクワク」をつねに胸に抱きながらNOT A HOTELを作っていこうと思います。
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