【俺史】社会人20年間を振り返る #4
【前回までの振り返り】
卒論もすったもんだが有りましたが、なんとか大学を卒業した私。
4/2の入社式、即ち、学生という最大のモラトリアムが終わる足音が近づいてきていました。
残酷! 自由が無くなるまでのカウントダウン
大学卒業後から入社式の日まで、私はまるで悪夢に襲われるかのような日々を過ごします。
「もう自由な生活は出来ない」
「決まった時間に起きて決まった時間に寝る生活が始まる」
「一番下の立場からの組織参加」
「何かしくじると組織のメインストリームから脱落する緊張感」
このような、社会人の拡大解釈のような強迫観念に苛まれ、もはや寝ることができない日々を過ごしていました。
自由を味わえる時間がなくなるので寝るのが惜しいとも言えましたし、寝ようとベッドにいると、言葉には表せないような不安に襲われて逆に目が冴えてしまって寝られない。
そんな状況でした。
寝られない時間があるなら何かやらなくては、何かを変えなければ、そう思ってなにかを取り組もうと想いますが時間は残酷です。
入社式の日がついに来てしまいます。
新しい門出にワクワクしない自分
人生において新しい環境に足を踏み入れるときはいつもワクワクしたものです。しかし、小学校、中学校、大学、と入学式はいつも自分は受け入れられる側で期待に胸を膨らませたものでした。(私中高一環だったので高校入学式ってなかった)
しかし、入社式は自分にとっては決してポジティブなものでは有りませんでした。
「社会人」という社会の大きな型枠にはめられてしまう
こんな事を思っていたあまりに、入社式、新入社員研修、この期間はとても暗い気持ちをいだきながら過ごしていました。
一方、同期たちはとても楽しそうで、私の目にはとても眩しく写りました。将来、この会社で活躍する事を疑わない発言や姿勢が一体どこから来るのか?私と同じような不安を感じている同期は居ないのだろうか?そうずっと思っていました。
「来週からは技術系の方々は現場実習です」
新入社員研修の4日目。
技術系は他職種の同期と別で研修をするというアナウンスがありました。
いよいよ現場が近づいてくる。「労働」がくる。
他の大多数の同期とは違うコースに進んでいる自分の不安定さと、本当に社会人になったことが良かったのか、という迷いを抱え、引き続き社会という大きな組織に組み込まれるという不安とともに、敷かれた研修という線路に乗っていました。
「お客様」という聞き慣れない言葉
現場実習は、グループ会社の倉庫で行われました。
そこでは商品の最終組立の実習と商品の配送の実習が行われました。
商品の組み立てはいわゆるベルトコンベアの脇に立って、流れてくる商品にネジを打ったり、部品をはめ込んだりする作業でした。
工程を変えたり、打ち込むネジを工作する机のどこに置くと効率的か、というようないわゆる生産工学てきな事を実践するものでした。
「あぁ、ダメだ。コレ全然面白くない。。。」
当時、技術系の同期の半分以上がまさに生産工学系、いわゆる工場の工程設計をする技術系のメンバーでしたので、彼らは非常に盛り上がりをもってこの実習を取り組んでいましたが、私は全くこの実習を楽しいとおもえていませんでした。
当然、研修で何を伝えたかったのかは意味はわかっていました。
しかし、「工程を0.5秒縮めて、原価を押さえること」が会社以外の誰に喜ばれるんだ?みたいな謎の問いが生まれてしまって、退屈さしか感じることが出来ませんでした。
しかし、配送実習は違いました。
配送ドライバーとペアになって、商品納入の助手をするような実習でした。
ドライバーのオジサン(多分、当時40歳くらい。今の私くらいかな)が、しきり私に言うのです。
「お客様が待ってるから」
「お客様に使ってもらう商品」
「お客様に迷惑がかからないように」
「お客様?ナニソレ?」
ペアになったドライバーは、本当に語弊を恐れず言うと、見た目は汚くて、汗臭くて、喋っている話も全く合理性に欠いている本当にただのオジサンだったのですが、この「お客様」という自分ではない対象に対する姿勢だけは圧倒的に素晴らしくて、腰の低さ、言葉遣いの丁寧さ、真面目さ、こういう姿勢が、どの納入先、いわゆる「お客様」にとても気に入られていました。
まるでお客様が、この「ただのオジサン」のファンであるかのような不思議な関係性になっていて「いつもありがとね」「また来てね」というコメントまでもらうようになっているのです。
こういうオジサン先輩の姿勢、つまり「お客様」という自分ではない対象のために自分のすべての注意を働かせる、という姿勢が、今までの学生時代にまったくなかったので、とても新しい観点を得たような感覚がありました。
それは当然なのでした。
何故ならば、大学生時代の私はアルバイトを全くしたことが有りませんでした。実は無利子の奨学金をもらっていたので、人に何かをサービスやモノを提供するという経験は皆無だったのです。
こういう自分ではない別の対象に
・自分以上に細心のケアをしていくこと
・その結果としてお客様の良い反応を頂くこと
・こういう積み重ねで自分のサービスやモノにファンができること
・実際にそれがお客の購買につながること
こういう姿勢が「新しいものを買う」ということにつながっているような気がして、これが経済を動かす基になっているのかもしれない、なんてことを思うようになりました。
「もしかしたらこれがプロフェッショナルってやつなんじゃないか?」
そんな事を感じたのですが、一方で強烈な後悔も心に湧き上がってきました。
「あ、オレ、お客様と会う職種で採用されてない。。。」
いよいよ配属先へ
強烈な退屈さと斬新な観点を手に入れた現場実習は終わり、いよいよ配属先での業務開始となります。
私は、神奈川県横須賀市夏島町という場所にあるこの会社の基幹事業所の技術部生産技術課に配属されました。
この事業所は、京浜急行の追浜駅で降りて1km近く歩いて通うのですが、歩いている間にふと不安にかられはじめます。
「あれ?スーツ着ている人が誰も居ないぞ」
私と同じ方向に向けて歩いている人が数人いるのですが、全くスーツの人がいません。
いよいよ会社に到着したのですが、通勤している他の方は全員私服でした。
スーツでいるほうが完全に違和感というか、浮いているような感じなのです。
事業所なので、作業するときは作業服に着替えるのはわかっていますが、大手企業で働く人は、急な外部出張もあるかもしれないので、一応スーツで行くのが基本じゃないのかな、、、そう思っていたのですが、想定外の環境にめまいがする想いでした。
「あれ?なんか色々想定と違うぞ?」
「あれ?なんか、引き戻れないところまで来てしまっていないか?」
そう思いながら、配属1日目が始まっていくのでした。