野良から家猫になった老猫おししは、亡骸まで可愛らしく骨も立派な茶トラ猫。
野良生活を卒業して、気ままな家猫として、おそらく幸せに過ごしていたものの、やはりその時は来たようで、食べない日が何日か続き、みるみる痩せていった。最後の最後は本当に、冗談みたいにぺちゃんこな体になって、おむつをしても、すぐにスルッと抜けてしまう。何度か通院して、入院もして、もうおそらく無理だろうと、家で様子を見ていたものの、やはり今日、もう一度病院へ連れて行こうと言っていた朝に、家族のいるリビングで、私が歯を磨いている間に、息を引き取った。
おししの亡骸はとても軽くて、抱いても、もう暴れることはない。あの、納得のいかない表情をすることもない。鼻をくっつけて、思い切り匂いを嗅いで、それでも死臭がするわけでもなく、脇腹あたりに耳を当てると、心臓は止まっているはずなのに、どこかの気管がまだ動いている音がした。
火葬場はカーブの山道を三十分ほど走った先にあった。火葬炉に入る姿も、おししは、なんともおししらしく、その姿はユーモアがあり、可愛らしかった。一時間ほど待って出てきたおししは、白い骨に姿を変えて、恐竜の標本みたいだなと思った。
「立派な骨です。かなり大きな猫ちゃんだったんでしょう」と葬儀社の人。そうなんです。おししは、最後は痩せて、もう子鹿のバンビちゃんみたいでしたが、ちょっと前までは、ずんぐり太っていて、その割に尻尾が細くて貧相で、がに股で、顔は獅子舞みたいで、わがままで、図々しくて、それが、私にはとても良かったんです。