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読んだ本 『井上俊之の作画遊蕩』

帯で惹かれたら充分。作画の神々だけが辿り着く地平で交わされる言葉の数々に、痺れればよろしい。

表紙・帯

ただ、ちょっと説明は必要な本かと思う。

それは「興奮した帯書いてる本田雄(たけし)さんもシン・エヴァやる予定から『君たちはどう生きるか』に引き抜かれて・・」
「お前も神だろ!ってことで」は、なく。

まずは、分量の意外な少なさ。
10名との対談を収めたわりに152ページで、ひと対談は13ページ程度にとどまる。あとがきでは毎回3時間以上収録したと書いてあるけど、ずいぶんカットされているようだ。いい話がボロボロこぼれていただろうに。

裏表紙・帯 錚々たる、、、

もう一つは、この対談本において通底したテーマとなっていること。

この対談の連載(『ニュータイプ』2021年1月~'22年7月号分を収録)で井上さんが抱えていたものは
「アニメ制作において〈レイアウト〉の工程をどう効率化・有効化するか」
という、制作環境・労働環境整備のテーマである。

その、レイアウト工程の問題というのを、
ものすごく雑に説明すると・・・

まずアニメの制作で〈脚本〉が出来たあとは〈絵コンテ〉が切られ、各シーンのカット割りとおおよその画面構成が示される。
その次に〈レイアウト〉、より詳細な画面設計図が描かれ、背景担当、人物担当へと渡されていくのだが・・
現状の一般的な工程では、レイアウトを描く際に人物画=〈原画〉もけっこうな精度・枚数で描くことになっている。というこれが「レイアウト ラフ原(画)制」
で、そうすると何が問題かというと・・監督&作画監督のチェックでやりなおしになったとき、描いた手間が空振りだということ・・そもそも、上部のチェックを受ける前に決定稿に近い手間を費やしてしまうのはいかがなものか・・
ということで、本書を開くとまず口絵で示されるのが「レイアウトキーポーズ制」。ラフ原画の枚数は最小限に収め、画面構成と人物芝居のレールを敷くことにフォーカスしている。
まあ口絵を見ると「めちゃくちゃ上手いしちゃんと描いてるじゃん。大変じゃん」と素人だから思うのだけど、
しっかり描きつつあくまで「提案」レベルに留めておくということなのかも。

・・という、
「仕事の進め方、もっとうまい方法ないかね?」
の話を、そんなことより、と思うか、うわあ、わかるわかる。と思うかで、本書の評価は違うだろう。

とくに海外の現場で活躍する鈴木亜矢さんとの対談は、制作システムを深掘りしていくものになっている。ほとんど社会科見学といってもいいかもしれない。


編著者の高瀬康司さんによるあとがきには、こうある。

アニメーション関係以外の編集者やライターと仕事をするときはよく、演出とアニメーターの関係を、自分たちの仕事になぞらえて説明してきました。(略)アニメーションの「制作システム」の問題とは、「プロジェクトマネジメント」そのものだからです。

149,150ページ 太字引用者

宮崎吾朗さんは、自身がキャリアを積んだ「土木や建築工事の現場とそっくりだ」と書いた。
ガイナックス→カラーと、同じ仲間との場を繋いできた鶴巻和哉さんは「毎日かなりの時間ずっと一緒にいて(略)共通認識ができてくる」として、

井上 でもだとすると、鶴巻くんはカラー以外で監督するとなったらどうするの?
鶴巻 いやもう、ひどい目に遭うだろうなと思います(笑)。  (略)
「違う言葉の島」に行ったらと想像すると、現場で何も伝えられないかもしれないと怖くなりますね。

75ページ

組織づくりといえば、『シン・エヴァ』の組織づくりをまとめた『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン』という本もあった。なんだかんだで結局、庵野さんはすごい、に行きついてしまう証言は多かった気がするし、そのうえで上の鶴巻さんの言葉を読むと
「『シン・仮面ライダー』は違う島だった」
と思わざるを得ない。

ともあれ
一部の天才を愛でる文化とともに、全体の組織づくりも本になる世代~時代~に変わってきた。
すべて、人と人が関わり、伝達して、一緒にものを作っていく現場なのだ。


最後に話が逸れちゃった。


『作画遊蕩』面白い本です。ぜひ。



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