そう言わなくてもいいんじゃない?
「これこの間も教えましたよね?」
耳に挟んだ僕は、作業中にもかかわらず思わず振り返ってしまった。
そこには戸惑うアルバイトの方と、若干呆れ気味のマネージャー。
怒ってはいない。表情も怖くはない。でも言い方には棘がある。だから思わず振り向いてしまった。
だって、最近入ってこられた方に対してそんな言葉を浴びせていたから。
なんて言い方してるんだあの人…。
素直にそう思ってしまった。
数ヶ月前に入社していまだに同じこと聞き返している僕なら話は別だ。これはもうほんと怒られていいレベル。でも怒られてはいない、いまだ奇跡。
だけど今回はそうじゃない。
矛先は、新しく入ってきたアルバイトの方に対して。
忙しいのはわかる。いつもワタワタしているのを横目に作業しているから。研修制度もないから人も育たない。その分の仕事が回ってきて負担になっているのもすごくわかる。
でも、そう言わなくてもいいんじゃない?
教えられたことをもう一度聴くこと、実はかなり勇気がいることをよく知っている。
だって、僕は物覚えが悪いから。
「これまたわからなくなっちゃった…。でも聴くと怒られそうだな…」と不安になることはしょっちゅうある。
教えてもらって、わからなくなって。
不安な中それでも聴くのは、「ちゃんと確認しよう」とか「あの人なら安心して聞ける」とか、少なからずそう思っているから。
良好な人間関係も、仕事における定着率も、言い方一つで大きく変わる。
きつい言い方してくる人についていきたいとは誰も思わないし、嫌な顔する人とは一緒に仕事はしたくない。考えてみれば当然のこと。
仕事場で仲良しこよしをする必要はない。
けれど少なくとも、質問してきてくれた人に対して棘のある返答をするのだけはやめてほしい。
されるのも嫌だし、されている人を見るのも、かわいそうに思ってしまうから。