新作ミュージカル『COLOR』感想
シンプルな舞台装置。
ミュージカル『COLOR』は開演前の舞台が撮影可能。
下手にはピアノ、パーカッション。
鮮やかなライトに照らされ、輝いて見える。
440席ほどの小さな劇場での観劇は、贅沢な時間。
鮮やかな照明が消えるとそこは真っ白い世界。暗転と共に現れたのは母。
優しさに溢れた母(濱田さん)の歌は、始まった途端に涙が溢れた。
まだ事故の後遺症なのか、ぼくは足元がおぼつかない。
言葉もスムーズでない。セリフを話すように歌が続く。演奏も出演者。
音楽、ではなく台詞の一つに聞こえた。
初めての「きらきら光る、しろいつぶつぶ」
食べるということも、忘れてしまった草太は炊き立てのお米を手で掴んでしまう。おいしい。
“わからないことが たくさんあるんだ“
食べることや寝ることも忘れてしまったぼくは、わからないことを「どうして」「どうして」と母に聞き続ける。大切な人たち演じる父親はぼくを子供扱いしない。ぼくがわからないことを聞けるのはお母さんしかいない。
“どうして 人は 生きているの“
“どうして ぼくは 生きているの“
耐えきれなくなったぼくは家を飛び出し、誰も自分を細い目で見ない、静かな場所へ行く。わからないことさえ、わからないような僕(成河)わからないことに葛藤し、感情的になる僕(浦井)ここはそれぞれの僕の捉え方が全く違う。表現の仕方は違えど、母と父のぼくへの愛情が伝わる場面。
原作に登場する坪倉さんの新鮮な表現の数々。電線・おかね・エスカレーター。テンポ良く物語が進む。駅名も読めない中、電車に乗って学校に通う。お母さんの送り出す気持ちはすごい。ポップな音楽と共に登場するUFOキャッチャー。
“助けてよ ここから出してよ この中はとても苦しいんだ“
ぼくはこうやって自分の気持ちと戦っていたんだなと思う。4畳半がぬいぐるみでいっぱいになるまで見守る母。それぞれの苦悩や葛藤があるが、決して悲観的ではない。手探りで前に進んできた感じが伝わる。
大学の同級生、ヒカル。一緒にコーラを飲むシーンは毎回笑いが起こる。大切な人たちの見せ場の一つでもある弾き語り。下手すぎて部室を追い出されたという割に、成河さん演じるヒカルは弾き語りが上手すぎる。(追記 名古屋公演では成河さんヒカルの時は2回とも部室追い出された台詞がなかったです…!)成河さんは一体いくつ引き出しを持っているんだろう?ほんとに、天才だと思う。
そんなヒカルを見る僕の浦井さんは目に涙を溜めているよう。
“ぼくの万華鏡 なんの形も結べない まわしても まわしても“
過去に触れ、記憶の小さなかけらがふわふわ浮いているのに思い出せない。2人の僕はアプローチが全然違う。「放っておいて」と出て行こうとするぼく、「私も一緒に行く」と必死で止める母。顔を歪めながら目から水を流す母。「僕のせいなんだね」草太は母の愛情と優しさの深さを知り、泣き崩れる。
“ぼくは今まで 何に縛られていたんだろう“
お母さんはいつでも優しく包み込んでくれて、お父さんはどんな時でも優しく受け止めてくれる。はじめは無感情だったぼくの顔が、自分だけの色を見つけようと希望に満ち溢れている。
“そうだ 優しさ伝える色で 心を繋げよう“
春の若葉は皆似てるけど、日差しを浴びて雨に打たれて。秋になるとそれぞれの色、同じ葉っぱはひとつもない。人間も同じ、過ごした時間が色になる。私は今どんな色に染まってるんだろう。
記憶がなくなるということは、過去だけじゃなく将来の夢も失ってしまうこと。過去の記憶の上に将来の夢を思い描いているなんて、今まで考えもしなかった。
“見つけてみよう 自分だけの色 今この時の いのちの色“
聞き取れない言葉はひとつもなくて、語るような歌だった。(これが日本オリジナルミュージカルということなのか)誰がやるか、でこんなに変わるんだな。僕の2人はすごすぎる。
観るたびに違う感情が湧き、今を生きるエネルギーになる。何度でも観たい、そう思える作品。
あとがき
技術や経験だけじゃなくて、天性の才能のような。浦井さんから溢れる思いが伝わって、何かが込み上げてくる。
だから私はまた劇場で会いたいと思う。
どんな芝居でも良いわけじゃない。浦井さんの良さが活かせる役にこれからもたくさん出会ってほしい。
なんて、私は勝手に思っています。本人はそんなこと考えてないかもですが。たくさんの舞台に出会って、かけがえのない時間を過ごして。私はどんな色に染まれるのか、ワクワクしながら。