10/9 夜の牛丼屋で人生が交錯する
その夜、とある山へ向かうため前泊先となる場所へ車を走らせていた。
予定通りの時間に出発したのだが道中の混み具合が影響し、時刻は既に21時を過ぎようとしていた。
翌朝の登山に向けて睡眠時間は確保したいところ。
自然とアクセルに掛かる足にも力が入ろうという頃、落ち着けとばかりに腹の虫が鳴ったのが分かった。
お誂え向きに目の前にはチェーンの牛丼屋の看板が煌々と辺りを照らしているのが見えた。そこからは早いもので迷うことなくハンドルを回していた。
店内は空いており、着席しているのはお一人様であることが多かった。埋まっているようで持て余しているスペースをささやかながら埋めていく。
店内BGMは流れているが客からは会話の類は聞こえてくることはなく、箸が鳴る音や器と接触して生じる乾いた音だけが辺りを包むなんとも空虚な感じがした。
微妙に愛想の悪い店員に注文を伝え、改めて店内を見回す。
疲れた顔をした会社員、不機嫌そうにしている厳つい男、部活帰りなのか眠そうにしている若者、手持ち無沙汰になって退屈そうにしている店員に、そして遠征に来ている僕。
狭い空間の中で色々な人生が交わっている。
許されるのであれば、今夜なにがあって牛丼屋に入ったのか聞いてみたいものだ。
お休みにも関わらず仕事している会社員にはどんな会社に在籍しているのか?
不機嫌おじさんには単純になにがあったのか?
眠そうな若者にはなんの部活に入っているのか?
だなんてこれまでの人生の背景にも興味が湧いていたが、勿論そんなことが出来るはずはなく、目的を終えた後は速やかに戻ってまた車を走らせる。
他者様の人生に興味が出る辺り、店員に負けず劣らず大概僕も暇な人間だったんだなと。