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すぐに忘れちゃうから・・・
桜がすっかり散ってしまった目黒川沿いを歩いていて「めぐろがわ」という東京都の看板を見つけた。日本人なら中国の簡体字も読むことができるし、アルファベットやハングル表記も記載されている。
“目が黒いこと”は東アジアの人たちの共通項なだけに、中国の人がこの地名(この場合は川の名称)を見てどう感じるのかな?などと考えた。
目黒区のホームページでは「目黒」の地名の由来について「馬のあぜ道説」「地形説」などと併せて「五色不動由来説」を紹介している。仏教徒として、私は当然のように不動尊が由来だと思いこんでいた。
五色不動とは東京の各地にいまも安置されている不動尊たちで、江戸時代までは大いに信仰を集めた。目黒以外にも目赤・目黄・目白・目青不動があって、私はすべて参拝したことがある。いまや地名として馴染みがあるのは目黒と目白だけになっているので、ほとんどの人は「目赤」「目黄」「目青」はなんのことかわからないのではないか。
わずか150年前には常識だったことが、すっかり忘れ去られているのである。
思い起こされたのが、東日本大震災のあとに観覧した映画「100000年後の安全」。
フィンランドに建設された核廃棄物処理施設「オンカロ」。放射性物質が安全になるまでに10万年かかることから、未来の人類にその危険性を伝え続けることの難しさをとらえたドキュメンタリーだ。10万年という時間の途方もない長さを過去に遡ることなどで表現していて、ラストで女性科学者が「グッドラック」と言い放った笑顔が現代人の無責任さの象徴として印象的だった。
江戸っ子はわずか150年前の「目赤不動」をすっかり忘れ去っているのだ。10万年後に人類がどのような文明を継承して、オンカロの危険性を認識し続けられているのか、想像もできない。
うららかな春の目黒川で背筋がゾッとしたのである。
(22/4/8)