文章の密度と緊迫感
第166回の芥川賞を「ブラックボックス」で受賞した砂川文次氏の新作長編「越境」を読んでいる。この作品がなかなかの“歯ごたえ”なのである。
純文学を対象にする芥川賞。主催している日本文学振興会は「雑誌(同人雑誌を含む)に発表された、新進作家による純文学の中・短編作品のなかから、最も優秀な作品に贈られる賞」としている。長編小説は対象ではないのだ。
受賞作「ブラックボックス」はメッセンジャーとして自転車を駆る青年の物語だったが、砂川氏は元自衛隊員。それ以前に候補となった「小隊」はロシア軍が突然北海道に侵攻してくるようすを描いたもので、細部にこだわった描写は経験者ならではの緊迫感があった。
「越境」はその10年後の物語。
たてつけとしては近未来軍事サスペンスのエンターテインメントだが、中編「小隊」がそのまま長編になったようなものなので、とにかくシチュエーションの緊迫感と文章の密度がすごい。じっくり腰を据えて取り組んでもさっぱりページが進まないのである。
私の読書でいちばんやっかいなのがこうしたタイプの本かもしれない。エッセイや軽い小説なら半日で読了してそれなりのカタルシスも得られるし、小難しい人文系の本であれば、理解困難と見切ったところでスパッと読了を断念するだけだ。
面白くないわけではない。この歯ごたえこそが本書の醍醐味なのだろうから、ここはじっくり味わえばいいだけなのだ。このもどかしさも含めての読書の悦びなんだろうな。
(24/8/18)