傷痍軍人がいた記憶
これまでほとんどウォッチしてこなかったNHK朝ドラだが、前作「ブギウギ」では主人公の子役の魅力にハマってそのまま“完走”した。今期「虎に翼」は「初の女性弁護士?古臭い昭和の朝ドラが戻ってきたもんだ」とお付き合いする気になっていなかったが、熱心な朝ドラファンの同僚2人に引きずられる形で見始めたところ、これがなかなかおもしろいのである。主演の伊藤沙莉がとにかく上手く、その魅力を引き出している脚本も非常にいい。
ドラマはいま、終戦を迎えて主人公が家庭裁判所設立に奔走するところまで進んでいる。
気になるシーンがある。
登場人物たちが集まる公園の一角に傷痍軍人がいて、ハーモニカを奏でている。主人公は時折空き缶に小銭を入れるのだ。
昭和38年生まれの私にとって、先の大戦は「歴史上のできごと」でしかない。終戦からわずか18年後に生を受けたにもかかわらず、だ。
それでも、新宿駅の東口と西口をつなぐガード下に白い服を着た傷痍軍人が佇んでいたことはかろうじて記憶にある。
ガード下の消毒液の強烈な匂いもあいまって、子供ごころにその異様な姿が怖ろしくて仕方がなく、とても直視できなかった。あのガードはすっかり明るく清潔になったが、いまも通りかかるたびにちょっと背筋がゾワッとするのである。
高野山の奥之院には英霊殿がある。弘法大師の御廟へのルートからはすこし外れているためにお参りに立ち寄る人はほとんどいないようだが、私は現地訪れるたびにお賽銭を入れてお経をあげるようにしている。
終戦からことしで79年。
あの戦争に散った英霊たちには、高層ビルが立ち並び、時速320キロで新幹線が縦横無尽に列島を駆け抜け、毎日何時間も人々がスマートフォンに首ったけの21世紀の日本がどのように見えるだろう。
せめてあと10年早く生まれてきて歴史を理解できていたら、傷痍軍人さんの姿にあれほど無闇に怖がることはなかっただろう。そして見かけるたびにお金を入れさせていただいていただろう、と思うのである。
(24/6/15)