「親を見れば、わかる」
藤井聡太三冠の快進撃が止まらない
棋王戦トーナメントでは敗れたものの、藤井三冠の今期の成績はここまで27勝6敗で勝率はやはり8割を超えている。トップ棋士ばかりと当たる中でこの成績はすごいことで、“観る将”の当方は対局日にはいつもワクワク応援している。
対談本「考えて、考えて、考える」(丹羽宇一郎氏との共著)でも垣間見えるのが、ご両親や杉本師匠が藤井三冠を実に温かく見守っていることだ。将棋をやらないご両親だが、聡太くんがやりたいことを受け止めてしっかりサポートしてきた。棋士への登竜門・奨励会は大阪で行われるので、藤井三冠がまだ小学生だった頃にはいつも愛知県の自宅から新幹線で同行していた、という。単純に時間がかかるだけでなく、経済的な負担も大きかっただろう。
藤井三冠のエピソードによく登場するご両親だが、マスコミの取材で顔を出されているのを見たことがない。有名になるほど家族もいろいろな雑音にさらされることを承知しているのだろう。世の中には自分も注目されることを喜んでいるとしか思えないような親もいるようだから、その姿勢に共感する。藤井三冠がいまも愛知県の実家を出ていないのも、この家族の絆があるからだろう。
カープ帽の少年
羽生善治九段のエピソード。小学生時代に将棋の大会に出場する際はいつも広島カープの赤い帽子をかぶっていて、「とんでもなく強いカープキャップの子がいる」と話題になっていたという。カープのファンではない。母上は「迎えに行った時に赤い帽子だとすぐに見つけられるから」と取材に対して答えている。こちらも我が子を大切に見守る親御さんの温かい姿が印象的な話だ。
米長邦雄永世棋聖が言っていたそうだ。「弟子を取る時には親を見る。それで子供のことは大体わかる」。「親の顔が見てみたい」などと言われがちな日本社会。子どもは親の所有物ではないし、ましてや親が思うようには育ってくれないものだが、「羽生・藤井になれなくても、せめて世間さまに恥ずかしくないように育ってくれ」という“親ごころ”はこれからも変わらないだろう。
(21/9/21)
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