見出し画像

職務質問にビビる

 以前も書いたが、日本の素晴らしさは気候や、清潔さや、交通機関の正確さなどいっぱいあると思っている。そしてなによりすごいのは治安の良さだ。それを支えている警察官ひとりひとりの努力と優秀さには敬意しかない。

 社会部の記者として警察を担当した。いまだに「友人」としてお付き合いがある方もいる。このため、私の警察活動への興味・関心は通常レベル以上かもしれない。

 警察にはさまざまな「職人技」があるが、パトロールにおいてアヤシイ人物を見分ける“眼力”の正体が私にはわからない。
 
 街でパトカーや自転車の警察官とすれ違う。その時にとっさにどういう態度を取ればいいのか、これが悩ましい。

 「犯罪行為には一切無縁なのだから焦ることはない」と理解はしているが、「もしここでヘンなそぶりをしたらアヤシイと思われるな。それは時間の無駄だし、きっとおそろしく不愉快な事態だよな」とビビる。するとかえって挙動が不審になっていく(ような気がする)。

 何が彼らの“アンテナ”にひっかかるのかがわからない。「急に走り出す」などという行為はもちろん該当するのだろうが、流石にそれはやらないぞ。

 「目をそらす」はどうなんだろう。やっぱりアヤシイと認定されちゃうかもしれない。そう思っているから、つい、わざと顔を向けてそのパトカーを睨みつけたりする。これも十分に不審な気がしてくる。

 知り合いの音楽会社の社員のエピソード。

 発想は豊かだし、明るい酒を飲むし、みんな大好きな男なのだが、業界ならではなのだろう、ヤセ型で長髪チョビ髭がとにかくチャラい。会社は六本木にある。

 ある日の待ち合わせで、集合時刻に現れなかった。みんなが待っていたところに「いま、職質されているんで、遅れます!」とのLINEである。一同「まあ、彼ならそれもあるよね」となんとなく納得。

 遅れて合流した際に話を聞くと、「普通に会社の近くを歩いていただけなのに呼び止められた」「『DJさんとかですかあ』『どこ行くんですかあ』って、しつこくて、かばんの中身も全部見せられましたわ」。そのようすが目に浮かぶだけに、みんなで大笑いであった。

 私は警察担当だった平成の初期に、夜回り(警察官の自宅に夜に取材に行く)で対象の帰宅を待っていた際に職務質問をされることがたびたびあった。ご近所から「ヘンなのがいる」と110番されたのだろう。当たり前である。やってきた警察官に身分証を示して事情を説明するわけだが、もちろん誰の取材をするつもりなのかまでは明らかにしなかった。

 それから、はや30年以上。それ以降は一回も呼び止められたことがない。やっぱり“パトロールの眼力”はそれなりにすごいということか。

 どこかで「呼び止められたら、話のタネになるから、ちょっとおもしろいかな」とも思っている。音楽会社の彼には申し訳ないが。
(23/2/18)


いいなと思ったら応援しよう!