科研費申請書を書く際のおすすめスタイル
レトリックは使ったとしても一つの申請書で一回
レトリックは、使ったとしても一つの申請書で一回にしましょう。レトリックを使うと、基本的には文量が増え、説明できることが減ってしまいます。また評価者の誤読や感情的な反発を招くこともあります。
例えば「周知のように」という表現を用いて説明し、読み手がその事を知らなかった場合、読み手は責められているように感じることがあります。また、知っていても周知ではないと考えていた場合、申請者の知識や現状認識に疑念を抱くこともありえます。それはピアレビューでは危険な事です。
一方、その分野の研究者が当然のように知っていることを、短い申請書の中で書く余裕はありません。それが申請内容の前提となる重要な情報であれば、きちんと記述すべきですが、周知かどうかは関係無い場合がほとんどです。
このように「周知のように」一つとっても、申請書上で効果的に使える場面は、とても限られます。レトリックは多種ありますが、一度の申請で慎重に一回使うのが精々ではないかと思います。科研費では基本的には用いない方が良いです。
専門用語(ターム)は使っても良い
科研費はピアレビューなので、専門用語が使えます。また申請書が短いため、専門用語を用いないと説明しきれません。ただし、評価者の分野の範囲が広くなる挑戦的研究や大型科研費では、相応の配慮が必要です
一般的ではない略語・略称は避ける
一方で、略語・略称は余程一般的なもの以外は避けた方が良い印象です。誤読を防ぐことと、対象に敬意を払うことの、二つの意味があります
評価者に「申請者はこの対象(分野)に敬意が不足しているのでは」と思われて、得することなど何もありません。また、理由の詳細を確認していませんが、国際誌でも公的な文章でも、略語・略称は可能な限り避けるようになっています(シカゴスタイルなど)。
同じ言葉を複数回使うようであれば「〇〇〇〇(以下、××)」といった形で初出の際に記述すると良いでしょう。またその略語についても、評価者の誤読を防ぎ、素早い読みを助けるためには、種類ができるだけ少ない方が良く、一つの申請書で多くても数種類に抑えるべきです。
括弧で言葉を強調するのは一種類だけ
ある言葉に特別な意味を与える際には、「」など括弧を用いるのは有効です。ただし、前後のどちらかに必ず説明を付けてください。そして短い申請書の中では、多種類の言葉の説明はできません。
また括弧つきの言葉を複数種類用いると、読み手に取って意味の新しい言葉が複数並んでしまい、文章がとても読み取りにくくなります。「」が並ぶと見栄えも良くありません。これは英語の""と似た感覚ではないかと思います。
全体の行間、文字サイズ、字体を、基本的には変えない
外側の余白と違って、この辺りの設定は変更しても構わないのですが、かなりセンスを問われます。そして、複数の申請書を並行してみていると、変えたものは悪目立ちする場合がほとんどです。
「世界初の」、「最も」、といった言葉は慎重に
申請書では、慎重に取り扱った方が良い言葉は色々あります。その中でも、世界初の、最も、は特に気を付けた方が良いでしょう。タイトルでは使わない方が良いです。論文でbestやmostをまず使わないのとほぼ同じ理由です。
研究で世界初の知見を目指していることは、ある意味当然であり、わざわざ主張するまでもありません。他方で、評価者がそれにひっかかりや不信を覚えた時に、基盤Cや若手では反論する機会がありません。つまりその記述がプラスに働く余地がほとんどありません。
また検証が難しい言葉でもあり、学術的に使用するためには、他者の論文を引用する等相当量の記述が必要です。申請書上でそれだけの文量を割くよりは、研究内容や期待される成果を少しでも具体的かつ詳細に記述する方がプラスに働くと思います。
細部にも気を遣おう
個人的な体験に基づく話ですが(しかしそれなりのnはある)、「あの人研究費をとるのが上手い」と言われる研究者の方々は皆、細部にとても気を遣っています。全角半角の混在とか、引用形式の乱れとか、図表のズレとか、まずありません。
記述式の申請書・研究計画にとって、そのような細部の違いがどこまで意味をもつのか、論理的な説明は難しいです。ただ実際に気を遣うと、少し説得力が増す印象が私にもあります。そして基盤Cや若手は評価システム上、その「少し」が結果を左右します。
あえて理屈をつければ、研究計画は、「将来の」「研究」という不確かなものを掛け合わせたようなもので、完全に理詰めで評価できるものではありません。印象で決まっている部分も当然あり、そういった中で細部へのこだわりが評価されるのは、間違った話ではないのだと思います。