科研費の申請書を書く際の注意点
評定要素の記述漏れがないように
評価者は評定要素それぞれに対してまず絶対評価を行います。そのため、評定要素に対して記述漏れのないことが重要です。科研費の評定要素は基盤研究については今年から「国際性」が加わり9つになりました。
9つの評定要素は幾つかのカテゴリにわかれていますが、それぞれのカテゴリ毎では評価を行わず、最後に相対評価により総合評点を付けます。そのため評価論的には、カテゴリはそれ程考慮しなくて良いと思われます。
次の9つの要素全てについて、それぞれ相応の量の記述があることを良く確認してください。なお、全体を把握しやすくするために短い言葉にしていますが、是非正確な要素を確認してください。
[R7科研費の評定要素の概略] 1. 重要性、2.「問い」・独自性・創造性、3. 研究の経緯と位置づけ、4. 波及効果、5. 研究方法、6. 準備状況、7. 遂行能力(実績)、8. 研究環境、9. 国際性(基盤研究では)
なお、ナンバリングを付しましたが、評定要素間での軽重は明示されていません。逆にいえば、評定要素が等しいとも書かれていない訳ですが、各要素毎に一度評価を行う仕組みにより、かなり均されると思います
なお今年の科研費では、評定要素と様式が、それぞれ別個に修整されており、昨年に比べて対応が難しくなっています(評定要素としては研究の位置づけと経緯は一緒のまま、1(1)に経緯を記述するなど)
評価者は、評価する際に申請書の中を(昨年よりも)行ったり来たりすることになります。ハイライトなどで評定要素を記述している箇所に上手く案内できれば、評価者の助けになり、また誤読も防ぐと思います
タイトルの付け方で悩んだら、まずは複数ひねり出す
タイトルは重要ですが、悩まれる方も多いです。そんなときは、言葉の順列・組み合わせを変えるなどして、まず最低5つ、できれば10個以上作ってみてください。
その中にしっくりくるものがあれば、軽く手直しする程度で良いタイトルができます。一つのタイトルで弄り続けていると、中々良いものに落ち着いきません。それよりも、まず数を揃えてその中での比較に落とし込み、「比較的良いもの」を洗い出していくという訳です。
その分野のシニア研究者に意見をもらえる機会が身近にある方であれば、3つくらいに絞ったタイトルをみせてどれが良さそうか聞くのも有効です。
長さ(文字数)は、ある程度あった方が良いです。特に基盤Cや若手では、少額のため研究できる範囲が絞られますが、その絞った条件をタイトルに加えるとどうしても長くなるはずです。文字制限の範囲内であれば長くて問題ありません。
研究課題の核心をなす学術的「問い」を一つ、適切な大きさで設定する
この「問い」は、一つの申請書の中で一つだけです。それより小さな、作業仮説のような問いは、ここで記述が求められているものとは異なると思われます。
逆に、この「問い」に対して答えを得るのは、その申請プロジェクトだけである必要はありません。一人の研究者が10年くらいかけて答えを探す問い、研究室で長年追っているものを端的に表した問い、学問分野・学会を定義づけるような問い、色々ありえると思います
ただ、小型の科研費の申請では、あまりに大きすぎる「問い」を扱わない方が良いでしょう。そのプロジェクトがその「問い」に対して、どの部分でどの程度貢献するのかを記述するのは難しく、また記述も長くなってしまいます。
「問い」の大きさで悩まれる場合は、書きやすさでいえば、個人で5-10年くらい(数プロジェクト)の規模感をお薦めしています。ただし書きやすさについても、分野や本人のスタイル、研究室の規模・立場によって大きく左右されます。
大きな「問い」に一発で答える自信がある場合は、正直なところ、科研費以外の資金の方が良いかもしれません。科研費は以前「不易流行」をキーワードとしていた制度で、文字通りの画期的な研究はメインターゲットからやや外れます。
研究目的を一つ、適切な大きさで設定する
申請する研究の目的を明記することが求められますが、慣れていないと、事前に設定するのは案外難しいものです。研究内容(調査したい事など)への意識が先行して、目的の記述に苦労される研究者も良くおられます。
目的が「〇〇を研究する」では、研究が自己目的化しているようで魅力的ではありません。せめて「本研究は○○を明らかにすることを目的とする」といった記述の方が良いでしょう。
学術的「問い」の一部分を申請研究が明らかにする、といった形で、学術的「問い」とのコントラストを意識して記述することができれば、記述も重複せず、説得力があると思います。
学術的「問い」とは異なり、目的を複数設定しても問題ありません。ただ、一つのプロジェクトの目的(目標)が複数あるのは好ましくはなく、特に基盤C、若手などでは目的をできるだけ少なくして集中した方が、実現可能性も高く、実際の成果もあがりやすいでしょう。
やっこう論文にしかならない計画は避ける
やったらこうなったという論文を一部分野でやっこう論文と呼んでいます。研究結果によって、論文がそうなってしまうのは避けられません。ただ申請段階で、成功してもやっこう論文という研究計画は、魅力的ではないでしょう。
多くの研究分野で、やっこう論文はまず高インパクト誌には載りません。科研費においても国際誌での成果発表を強調する昨今、やっこう論文にしかならない計画は今後ますます不利になると推測しています。
申請では、仮説検証的に記述し、研究成果がほんの小さな事でも未知の可能性を論理的に消す(それは研究の蓄積において重要な貢献です)ように設定するか、研究が成功した際の波及効果を強くアピールするか、そのどちらかをお薦めします。
波及効果の記述を忘れずに
従来から「波及効果」は評定要素の一つですが、これまで様式上に記述する場所がなく、今年から基盤研究では1(6)として項目ができました。しかし、若手研究では従来のように項目がないため、記述もれにご注意下さい。
これまでは、1(2)の末尾に新たな段落をたてて、波及効果と明記しその内容について記述することをお薦めしていました。ただし特に記述場所については、各項目の記述バランスや流れからみたものであり、正式なものではありません。
波及効果(インパクト)は記述も評価も難しく、計画段階では客観的に扱えるものではないと学術的にも言われています。その研究が成功すればどういうことが起こりうるのか、希望的観測で記述するので良いのではないかと思います。
本当に蛇足ですが、ここでの希望的観測の範囲までも科学者の責任とするフォージらの議論は、研究(計画)への過度の制約ではないかと考えます。実際として、計画段階で想定する波及効果は、reasonable expectationの範囲をはるかに越えている、越えないと記述できないものだと思います。
研究業績は記述+リスト
現在の様式の2(1)では、研究業績の記述(あるいは記載)となっています。しかし、記述だけでなく、リストも加えることをおすすめします。
以前(8年前まで)は業績をリスト化するように指示が出ていました。現在はリスト化の指示は無くなりましたが、リストを加えてもなんら問題はなく、多くのシニア研究者も、評価者も、以前の感覚を引き継いでいるように思われます。
現在も「学術論文の場合は論文名、著者名、掲載誌名、巻号や頁等、発表年(西暦)、著書の場合はその書誌情報など。」と例示されていますが、基本これに従ってリストを作成してください。
以前の様式・作法に従えば、最近の論文をリストの上に置くこと、ナンバリングすること、査読論文は「 (査読あり) 」と項目の末尾に書くこと、申請者の名前に下線を引くこと、などもおすすめです。
さらには、 リストのナンバーを元に、「 (研究業績1) 」などとして、様式の「1 研究目的、研究方法など」や様式2(1)の記述部分で引用すると、自身の研究業績をアピールできると共に、文章が煩雑にならずに済みます。
研究環境は整っているが必要なものもある、というスタンス
研究環境は評定要素の一つであり、環境が整っていることをアピールしなければなりません。とはいえ、整っていることだけを書きすぎると、そもそも何のために補助金を申請しているのか、という話にもなります。
科研費では、国への補助金申請であることをそれ程意識しなくても良いように、様式も評価システムもできていますが、「公益性のある事業(研究プロジェクト)を遂行するにあたり、〇〇が必要だから補助金を求める」という枠組みは背景にしっかりとあります。
研究環境が整っていることをアピールする段落の最後の文で、「しかし、本研究の遂行には〇〇、〇〇等が必要であり、補助金を申請する」、といった文を加えると収まりが良くなると思います。
なお、経費の説明も含めて「必要である」という言葉が良く用いられますが、必ず要るものは、無ければ遂行できないものです。科研費の評定要素にはありませんが、他の研究費では経費の必要性の評価項目がまずあります。科研費でも慎重に用いた方が良いでしょう。
補足:これらはどちらかといえば大型科研向けの内容です。あと、補助事業が公益性を持つ話は、大学の研究費マニュアルにも散見されますが、実は法的根拠は弱いです(自分も関わった資料が孫引きされたりして、ひー、とたまになる)