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(付記)科研費申請の論理構成についての雑考
発見するタイプの研究は申請書を書くのが難しい
何かの発見を目指すタイプの研究は、学術研究の中に間違いなくあるのですが、科研費の申請書として説得力をもたせるのは、かなり大変です。仮説検証的に書ければその方が各段に容易です。
また、過去同じような研究アイデア試行がなされていないかを確認する際にも、以前試して見つからなかった場合は論文もまず出ていないため、発見を目指すタイプは不利です。
実際に発見した研究実績と、別途科研費への採択実績の両者があって初めて、発見を目指すタイプの研究で採択されうるのではないかと、個人的には感じています。実績が無い場合は、発見した実績のある研究者に、分担か協力に入ってもらうべきです。
演繹は強い。研究が小さく見えてもそれで良い
申請書を演繹的に書ければ、2つの大きな強みがあります。まず、その研究が失敗しても確実な知識の積み上げができます。科研費の評価者がどこまで意識するかは不明ですが、資金を出す側からすると、これはとても重要です。
また、研究環境、機器、試料・資料、周辺知識なども、仮説を検証するのに十分であれば良く、規模の勝負にならなくて済みます。これは、他の論理にはない強みであり、特に小規模研究機関の方々はもう少し意識しても良い点だと思います。
仮説を立てて検証する計画を立てる訳ですが、 特に基盤Cや若手では、仮説を無理に大きく設定する必要はありません。演繹的な研究計画は実現可能性の高さが売りです。その強みを活かすためにも、小さな範囲の仮説を、可能な限りしっかりと検証する方が良いでしょう。
研究計画として小さく見えてしまう懸念は確かにあります(基盤Cや若手ではそこまで気にしなくても良いと思うのですが)。これを防ぐためには、研究背景を少し大きなところから始め、また、学術的な波及効果と社会的な波及効果の両方をしっかり記述すると良いでしょう。
研究結果を小さな凸レンズのように考え、そこに広いところから光が入り、通った先に大きな像として写し出すイメージです。結果がクリアでしっかりしていることが重要です。ハイインパクト誌のアブストラクトで多用される技法ですが、科研費の申請書にも流用しましょう。
帰納的な論理展開は欠点も多い
申請書は、帰納的な論理展開が書きやすいのは確かです。また、帰納的アプローチをどこまで敬遠するかは、分野によって異なるため、無理に避ける必要はありません。ただ、幾つか欠点があり、その点に注意して記述することが重要です。
帰納的には、どこまでデータを集めるべきか、どこまで精度を高めるべきか、明確な答えは得られないと思います。だからといって「資金の範囲内でやれるだけやる」であれば、学術的知見が得られるか不明です。そのため研究の実現可能性が低く見えることもしばしばです。
対策としては、計画を実施すればどの程度のことまでほぼ確実に知見が得られそうかを、研究が成功した時に期待される成果と分けて明記すると良いでしょう。二段階作って、一段階目は少なくとも達成できる、という見せ方です。
帰納では、同じ分野の他の申請書と比較されやすいというのも欠点です。 ほぼ同じ内容で、研究対象や条件が一部異なるだけ(例えばブタとウシ)の2つの申請書があった時、研究アイデアとしての優劣はまずつかないと思います。数十の申請書が同時期に出ているため、そういった被りはまま起こっているようです。そういった際には、実績や環境といったものの差が出てしまうことも多く、そのままだと若手や小規模研究機関の方が不利になるでしょう。
対策としては、学術的な波及効果、社会的な波及効果を出来るだけ書くというのが一つです。とはいえ、メジャーな研究対象だと競争相手も多く、一方でマイナーな対象だと(帰納的に)波及や重要性が弱くなりがちで、どう上手く見せるか工夫と知恵が要ります。
さらに帰納的な論理展開では、研究されていないからやる、というストーリーになりがちです。研究されていないというだけでは、成果が眠っているか、以前失敗しているか、魅力がなく誰も手を出していないか、読み手の解釈次第です。そうなると説得力は弱く、研究の必要性や緊急性はほぼありません。これを避けるためには、成果や波及を大きく見せると良いのですが、それで実現可能性が低く見えてしまうと本末転倒です。特に基盤Cや若手では、狭い範囲でもしっかりとした研究計画・内容が良いでしょう。
ヒュームの帰納の問題もありますが、事前にはどうにもならない面もあります。ただ、踏まえた上で申請していることを示すためにも、確証や決定といった強い言葉を使わず、また、プランBの提示や統計学的な検討を加える等で少しでも話を補強しておくことが重要です