茶漬けはもはや人生の伴侶

「好きな食べ物はなんですか?」
そう問われると私は迷いなく「茶漬け」と答える。

こう答えると9割の方が「茶漬け?!」みたいな反応をする。
驚いた後、決まって「何で好きなの?」「どこが好きなの?」「唐揚げの方が美味しくない?」と聞かれる。
理由を聞くのは自由だし、唐揚げが美味しいことは否定しない。
というか、普通に唐揚げ大好きだし。
なんなら、美味しそうなラーメン屋見つけたらフラッと入るくらいにはラーメンに目がないし、ハンバーグ弁当はついつい手を伸ばしちゃうし、オムライスを食べた日には上機嫌になるし、上司に「ご飯奢ってあげるよ」「値段を気にせずに行きたい場所選びな」と言われたら、迷わず叙々苑をねだるだろう。
そう、別に私は他の”人気メニューオールスターズ”のことが嫌いなわけではない。
ただ、そのオールスターズよりも、茶漬けのことが好きなだけなのだ。

このように答えると、だいたい「変わってるね」と苦笑いされる。
ちょっとメジャーから外れただけで、この言われようである。
最初こそ納得がいかなかったが、最近では慣れたもので、『へーへー、どうぞご勝手に「変」だのなんだの言ってくれ。こちとら譲る気なんぞ1ミリ、いや1ミクロンもないけどな。』といった心持ちになる。

常々、この状況は何かに似ているなと思っていたのだが、最近ついにしっくりくるものが見つかった。
学校のクラスだ。

クラスのユーモアを担う人気者・ラーメンくん、
サッカー部のエースでスポーツ万能なイケメン・ハンバーグくん、
飼育委員でウサギと戯れる姿が可愛いと噂のオムライスくん、
生徒会長で父親は学園理事の由緒正しきエリート・叙々苑様。
あと、幼馴染で人懐っこい笑顔が眩しい男の子・からあげクンね。

と、うっかり某コンビニの人気ホットスナックも登場させてしまったが、つまりはこういうことなのだと思う。
個々がそれぞれ際立った個性を持ち、数多のファンがいる”人気者”。
ファンクラブとか親衛隊とかできちゃうタイプのやつ。
F4ならぬG5(グルメ・ファイブ)なのだ。

さて、この場合茶漬けくんのポジションはどこか。
きっとクラスの隅、2・3人の友人と1つの机を囲んで休み時間を過ごすような日陰者だろう(そしてその友人は味噌汁や卵焼きあたりだろう)。
図書委員で茶道部。
身長は高くもなければ低くもなく、運動も秀でてできるわけではない。
ピアノも弾けないし、特筆すべき特徴もない。
強いて特技を挙げるならじゃんけんがちょっと強いくらい。
血も涙も茶もない言い方をしてしまえば、”地味”と呼ばれる彼。
到底、モテるなんて縁遠く、ましてや女子から話しかけられることもない。

でも、私は知っている。
彼はそこはかとない優しさを持っているのだ。
昇降口でばったり会うと必ず「おはよう」と挨拶をしてくれる。
教室内にゴミが落ちているとさっと拾って後方にあるゴミ箱まで捨てにいってくれる。
先生の話をうっかり聞きそびれて何ページの問題を解けばいいのかわからなくなった時、そっと教えてくれる。
筆圧濃いめの先生の授業後の黒板も、チョーク置くところまで隅々綺麗にしてくれる。
移動教室の時には必ず教室の電気を消してくれる。
そういえば人の悪口を言っているところを見たことがない。

地味で薄味で日陰者。
それでも、誰に対しても思いやりと優しさを持っている貴方。
そんな貴方だから、私は好きなの。
G5とかいう国際サミットみたいな名前の集団よりもずっとずっと好き。
きっとこれからも貴方のことを好きでいると思うわ。
いつだって貴方は優しいから。

はい、まさにこれ。
結局、オールスターズは個々のキャラが立ちすぎて、濃い味のものが多い。
いくら美味しくても、風邪や胃腸が弱っている日には流石にきつすぎる。
一方で、茶漬けはお茶やお出汁の深い旨みが効いていて、味こそ薄味かもしれないがそれはそれで美味しいし、何よりもいつでも胃腸に優しい。
そう、365日24時間、いかなる体調でも美味しいという最大の魅力がある。
だから私は、好きな食べ物の回答が「茶漬け」から揺らがないのだ。

さて、ここまで読んで、私の食べ物をクラスメイトに擬人化する妄想力に胸焼けを起こした方もいることだろう。
そんな時にこそ、是非茶漬けを食べて欲しい。
大丈夫、茶漬けは貴方にもきっと優しく寄り添ってくれるはずだ。

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もちづきもちこ
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