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[MVの歴史] 第1章:ミュージック・ビデオの前史
MVとは
ミュージックビデオ、通称MVは、知っての通りプロモーションや芸術的な目的で作られた曲と画像や動画を編集したビデオ作品であり、現在のMVは主に音楽商品の販売促進を目的としたマーケティングの道具やそのものの再生数からの広告収益を得るものとして制作・使用されていて、ここ数十年までの間では音楽テレビ番組やYouTubeなどのビデオ・サイトで見られるものですが、初期には劇場で上演されることもありました。
また、テープやディスク、ブルーレイ、DVDなどでビデオ・シングルやビデオ・アルバムとしてリリースされる場合もあり、例えば、アメリカでは通常は50万売上でゴールド認定を受けるところをビデオでは5万売上でゴールド認定を受けられたりします。
1920年代、劇場映画に録音音声が導入され音声付き映画が誕生すると、「ミュージカル・ショート」と呼ばれるミュージカルの短編映画が人気を博し、その後発展を続けて1980年代になってからアメリカの有料テレビで「MTV」というミュージックビデオのチャンネルが誕生、形式を確立したMVが人気を獲得し、普及していくこととなりました。
(ミュージカル・ショートと思われる動画)
MVではアニメーション、ライブアクション、ドキュメンタリー、ノン・ナレーティブ・フィルムなどの前衛的な映像作品など幅広いスタイルと技術が駆使され、MVはより多様性を獲得して人気を得ており、多くのMVでは音楽の歌詞のイメージやシーンが解釈されて映像化されるものの、より作品そのものがテーマ性のあるものであったり、ただライブ映像をそのまま使ったりという場合もあります。
(ライブ風のMV)
(ストーリー仕立てのMV)
MVの原型
そんなMVの原型が登場するのは20世紀だが19世紀後半の1894年、楽譜で音楽産業が回っていた時代にJoseph W. Stern & Co.は電気技師と共に「The Little Lost Child」の宣伝を、雇った音楽家の生演奏とともに「幻灯機」という映写機の祖先に当たる機械でスクリーンに次々と静止画を投影するという手法で行い、これがうまいこと行って曲は楽譜ミリオンを達成(当時はレコードではなく楽譜で曲を売っていた)しました。
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このような手法は「イラストレイテッド・ソング」と呼ばれ、アメリカのショーを行う「ヴォードヴィル」や小映画館「ニッケルオデオン」で楽しまれることとなり、主に映画の上映前やリールの入れ替え時の合間に流されましたが、単体でメインのものとして披露されることもあり、また、ロスコー・アーバックル、エディ・カンター、フローレンス・ローレンス、ノーマ・タルマッジ、ファニー・ブライスなどこのイラストレイテッド・ソングの歌詞を説明するモデルからサイレント映画の重要人物になった人もいます。
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そして、1920年代にニューヨークで音声と映像を一緒に収録できる当時最新の「サウンドカメラ」を駆使して映像と音声が同期した映画「トーキー(発声映画)」が生まれ、徐々に短編だけでなく今まで効果音や音楽だけだった長編映画にも声がついてくことになり、現在でも大きい「ワーナーブラザーズ」によって開発された映像と音声を同期させられるサウンドシステムである「ヴァイタフォン」を使用して行われたトーキー短編映画では多くのバンドやヴォーカル、ダンサーが登場、映像で音楽を奏でるようになり、これもある意味ミュージックのビデオと言えるでしょう。
(ヴォイタフォンの実演)
さらに、フライシャー・スタジオを立ち上げたカートゥーンアニメーションの制作者のマックス・フライシャーによって曲の歌詞を出してそれをリズムで動かしたりなど、リズムを視覚的に見られるような映像を作って観客を一緒に歌わせるという「バウンシング・ボール」という手法が開発されることとなり、多分、これは現在の「カラオケ」でも文字の色を変えたりなどの手法で行われているものですね。
ちなみに、当時のカートゥーン映画ではミュージシャンがアニメの合間にヒット曲を演奏していたそうです。
(バウンシング・ボールが使われている)
その他にも、テレビ放送を開発したことで非常に有名なイギリスの発明家ジョン・ロジー・ベアードも歌手達をフューチャーしたディスクを作り、他にも音楽映像の初期には言わずと知れたアニメ制作者ウォルト・ディズニーによるアニメ映画でもミュージカルの取り組みを基本とした『シリー・シンフォニー』や、オーケストラ演奏をフューチャーした『ファンタジア』など、音楽を主軸とした作品もあります。
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(シリー・シンフォニーの一シーン)
そして、ワーナー・ブラザーズが作った「バッグス・バニー」「ダフィー・ダック」「トゥイーティー」などの世界的なアイコン的キャラクターを生み出した『ルーニー・テューンズ』シリーズもミュージカルの特定のナンバーを中心に作られる作品でした。
実写映画でも当時、黒人ミュージシャンで最大の人気を誇ったジャズのスター歌手キャブ・キャロウェイなどの人気歌手をフィーチャーしたミュージカル短編が作られ、「ブルースの女帝」と呼ばれたベッシー・スミスなど多くの歌手も映画に出演し、映像と音楽の融合は進んでいきました。