Inktober炎上と「上達とカネ」の話
毎年10月、英語圏ではデザイン・イラスト系オンラインイベントInktober(インクトーバー)が開催されます。インクトーバーとはInk(インク)+October(オクトーバー)を合体させた造語で10月の31日間、インクを使った作品を描きSNSでシェアするというチャレンジで詳しくは以下のサイトで紹介されています。日本でもだんだん認知度の高まってきたイベントですが、今アメリカでは大規模なInktober反対運動が起きています。
みんなで上達しよう!というモットーのもとで広まったInktoberが悪名高くなったことには「上達とカネ」という背景があります。日本ではあんまり知られてないですが、アメリカのアート界では面白い動きだな~と思ったのでシェアさせて頂きます。
反対運動の引き金
InktoberはイラストレーターJake Parker(ジェイク・パーカー)によって2009年に提唱されました。反対運動の引き金になったふたつの出来事があります。
Jake ParkerがInktoberを商標登録したこと
別のイラストレーターがInktoberは自身の著書の盗用だと主張したこと
Inktoberを盗用した、と主張するのは黒人イラストレーターのAlphonso Dunn(アルフォンゾ・ダン)です。彼は自身の著書Pen & Ink Drawingで上達するためには日々の練習が不可欠だと主張し、できるだけたくさん練習するための工夫を紹介しています。彼が自分のアイディアがInktoberのアイディアに盗用された、と主張する動画がこちらです。挿絵も文章もそっくりだった、ということです。
アーティストがなぜ怒っているのか
盗用+商標登録は一件ジェイクとアルフォンゾ個人の問題のように思えますが、過去Inktoberに参加した人々まで怒っています。
Inktoberが始まった2009年はアルフォンゾの本やInktoberは無名でした。表向きは「作って、シェアして、仲間を作って上達しよう!」という名のもとに#Inktoberのハッシュタグを通じて10年かけてコミュニティが作られました。Inktoberは参加した全てのアーティストによってここまで大きくなったムーブメントなのです。アーティスト達は10年経ってコミュニティが十分大きくなった途端の商標登録を裏切りのように感じました。Inktoberを使って実際に上達したり有名になり、作品集などを出している人がたくさんいます。彼らは今後Inktoberを使うたびにライセンス料を請求されるわけです。つまり、
「作ってシェアして仲間を探して上達しよう!」という建前の裏でカネ儲けしてる誰かがいる
ということです。シェアして公開したら本当に「約束されている」ように、仲間ができ、やる気が出てコミットメントがあがるのでしょうか?上達するのでしょうか?ハッシュタグをつけてシェアせずとも、非公開で黙々と描けば上達するもんじゃないんでしょうか?それとも、「シェアすること」で参加者が誰かの利益のために利用されているだけなのでしょうか?
今Inktoberに参加することはInktoberの認知度を高め、商標権を持つ誰かの金儲けに加担するのでは、と疑うアーティストたちの間では #Inktoberを使わず 、テーマに沿った独自のタグを使うという新たな運動が起きています(#drawtober, サイバーパンク系なら#cyberpunkinkなど)。
SNSでシェアすることの意味
「シェアしよう!」の裏には「仲間を作る、上達する、機会が得られる」という建前がありますが、私個人の感触としてはどれもつぎ込んだ時間に対するリターンの少なさの方が目立ちます。フィードバックなどの上達の機会や仕事の依頼などのチャンスは皆無と言って正しいです。
なのになぜ、シェアしようという呼びかけが絶えないのでしょうか。投稿数が増えることで影響力を増やせるSNS運営側、「作品を載せる」というムーブメント、その創設者の認知度が上がるという側面は無視できません。
Inktoberを信じて参加したアーティスト達のように、影響力のある何かを信じて慕いアドバイスに従うことで誰かが儲かるための踏み台になっている様子はとても悲しい。餌食にならないためには誰が何と言っていても自分の頭で考えて自分に合った戦略を選ぶ勇気がいると思います。