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おもしろきことなき批評を面白く -星新½「時事ショートショート」集-

科学、政治、社会、ビジネス。芸能を除けば、ニュースや批評はいつだって難解だ。しかし、ちょっとしたユーモアでその壁を取り払うことは出来る。人民に批評的視点を与えることが出来る。すると、ほんの少し世界は動き出す。ニュースや季節の行事に基づく短編小説「時事ショートショート」は、そんな大袈裟な目的を持った小さな取り組みである。


作られ笑い

エモリー大学の脳外科チームは、大脳の内側面において、脳梁の辺縁を前後方向に走る脳回「帯状回」に電気刺激を与えることで、人工的に作り笑いを引き起こすことを発見した。

うつ病患者や慢性疲労、慢性疼痛に悩む患者にこの技術を応用することで、治療を促進する効果が期待できる。

社交的に振る舞うことに苦労する人が、「自然に」笑えるようになる日が来るかもしれない。

もちろん、奴隷の脳に刺激を与え、服従に幸福を感じさせることだって。


神の終焉

厄年は、神のお告げではなく、史実に基づく統計にしたがった未来学ビジネスだ。

例えば女性は、30代のほとんどが厄年に当たる。

子育てや主婦として多忙になり、子供が大きくなるにつれて心配事も増えれば、何かしらの不運が重なるのも当然である。

自由な働き方が普及し、女性の社会進出が進み、子供を持つ意義が薄れ、寿命が増えていけば、既存の固定化された厄年は、その信ぴょう性を失っていくだろう。

神社もうかうかしていれば、破壊的イノベーションの餌食になり、安定した収益モデルを失うことになりかねない。

神とてイノベーションのジレンマに直面するのだ。


天気予報能力の限界は2週間

技術発展をもってしても、天気予報能力の限界は2週間。

サイエンス誌に掲載された最新研究が明らかにした。

現状の限界10日間と比較すると、夢のない数字に映るかもしれない。

しかし、何もかもを見通せる時代よりよほど夢があるとほっとしたのは、私だけじゃないだろう。


ゆとりニルバーナ

底辺にいれば軽蔑される。

平凡だと無視される。

上に行けば行ったで妬まれ嫌われる。

比較から脱して、自分自身の絶対的価値や評価軸を持つことで人生にどれだけゆとりが生まれるか。

これを子供に教えずに、ただ順位のつけない教育を推し進めることがいかに愚かなことか。


星人式 

【新星】

恒星の表面に一時的に強い爆発が起こり、それまでの光度の数百倍から数百万倍も増光する現象を、「新星」と言う。

【新星人】

成人式で表面的に一時的に強い爆発が起こり、それまでの光度の数百倍から数百万倍も増光する若人を、「新星人」と言う。

新星人の皆さまおめでとうございます。


「君のナンバーは。」

この度政府が、マイナンバー制度の「通知カード」廃止を検討していることが分かった。

我々のデータを開示する以上、政治家や官僚にはそれ以上の透明性を期待したい。

政治家のありのままの会計や行動情報のリアルタイム開示を国民が請求出来る「ユアナンバー制度」があってもいいだろう。

世襲政治家に関しては、前前前世から僕は情報を探し始めるよ。


クソテック、あるいは糞尿経済

ある原材料の数兆円に登る経済的価値が注目を集めている。

それは金でもグラフェンでもない。

糞尿である。

嘘クサく聞こえるが、大昔から糞尿は農作物の肥料として活用されてきた。

糞尿のメタンガスをエネルギー源として発電させれば、再生可能エネルギーに変わる。

便微生物移植(健常者の糞尿を浣腸を用いて移植する)技術を使えば、腸炎を治療出来る。

糞はおおよそ75%の水分から成り立つことから、飲料水を製造する取り組みも存在する。

糞尿から取り出した窒素からプラスチックやサプリメントを作る研究も進んでいる。

「クソテック」は、小便臭くも胡散臭くもない、れっきとしたイノベーションだ。


快楽への抵抗

道徳倫理は避妊具に似ている。

身に付けなければ快楽は増幅するが、その危険性は言わずもがな。

しかし対話を通じて隔たりを越えた時、余所者同士に訪れるのは掛け替えのない奇跡である。


DARPAが秘密裏に進める研究“SCORE”

アメリカの軍事研究機関「DARPA」は、ある興味深いプロジェクトをこっそりと推進している。

「SCORE」と名付けられたプロジェクトは、科学的主張の実世界での再現性を、人工知能でスコアリングする取り組みだ。

社会及び行動科学研究の再現性の乏しさは、かねてより事業や行政における応用の妨げとなっている。

その点で非常に有意義なテーマだが、成果が日の目を見ることはまずないだろう。 

主張通り行動してるか可視化されて困るのはいつだって政治家である。


I'll Be Back

マサチューセッツ工科大学の研究者が、血球(10マイクロメートル)よりも小さいナノロボットの大量生産技術を開発した。

ナノサイズの"ロボット"の中には、電子回路が存在しており、データを集め、記録し、アウトプットを出すことが可能である。

ロボットによる人類の侵略は、SF作品に描かれる壮大な戦争とは異なり、体内からじわりとやってくるのかも知れない。


藤子プロに厳重抗議せよ

靴底とスマホには、いくつもの新種バクテリアが潜んでいる。

外出後の履物と、ポケットから取り出したスマホを検査したカリフォルニア大の最新研究が伝えた。

この研究は、もう我々が今までのようにドラえもんを見れない可能性を示唆している。

そもそもこの猫型ロボットには、靴を履く概念が存在しない。

3mm浮いてる説もあるが、それだけで雑菌繁殖を防げるとは思えない。

極め付けは、四次元ポケットだ。

私が知る限り、使用済みアイテムを洗浄する描写は一切ない。

ほんやくコンニャクや暗記パンは、食中毒の温床だ。


人間周縁主義

難解な利用規約を目にすると、ユーザー至上主義や人間中心設計を謳う企業の底の浅さが垣間見える。


ベン図のベン図


革新的クリスマス

現代社会は破壊的イノベーションの連続により、未曾有の経済的構造変化が起きております。

もちろん、長きに渡り神格化されてきた我々サンタ業界も例外ではございません。

明日は我が身、ベリー苦しみますと言って過言ではないでしょう。

イノベーションなしに、サンタ苦労しない未来はありえないのです。


「もっと仕事ください」

昇進したいなら、上司に「もっと仕事ください」と一見前向きな姿勢を示すより、自らチームの課題を見つけて解決策を提案した方がいい。

「もっと仕事ください」は、「私は言われた仕事しかできない一生ペーペーがお似合いの人間です」と自己宣告しているようなものである。


日本復興の鍵は皇帝制復古にあり

皇帝ペンギンの社会は、人間社会の在り方を考える上で示唆に富む。

押しくら饅頭で寒さを凌ぐことは知られてるが、すごいのはここからだ。

固定状態に陥れば外側から凍死していくから、外から内への循環を起こして交互に痛みを背負う。

公助の削減は、共助の発展なしに議論できない。

分断された社会に必要なのは皇帝ペンギン政治である。


宇宙ビジネス投資なら吉本興業株

慣れない狭小環境に閉鎖される苦しみは想像に難くない。

地球から2億2500万kmも離れた火星への旅となれば、なおさらだ。

故にフロリダ大学人類学部のジェフリー・ジョンソン教授は、火星探査におけるお笑いセンスの高いムードメーカーの重要性を最新のインタビューで語る。

南極探検隊のチームワークを長年研究してきただけに、説得力がある。

宇宙ビジネス投資に熱心な私はすぐさま吉本興業の株を漁ったが、あいにく彼らは非上場企業であった。その他芸能事務所も多くが非上場。

面白味に欠ける。


土食

フィンランドのスタートアップ Solar Foodsは、土のミネラルを栄養に成長する微生物からタンパク質を抽出する方法を開発している。

一度土を採取すれば、その後何度でも微生物を増殖出来るようになるという。

もし成功すれば、他のどんなタンパク質機器ソリューションよりも優れていると、Solar Foodsは意気込んでいる。

しかし、課題はスケーリングだ。

現在Solar Foodsは、一日に1kgのタンパク質しか採取できないという。

これでは、数人分しか賄えず、人類は土に還ることになるだろう。


独り身の孤独を救うタオル

バレンタインを独り身で迎えた我々に朗報だ。

体温を感知して生地の暖かさを変える特殊繊維が誕生した。

金属コート繊維が、伝わる熱を自動調整する仕組みだ。

現状心温は察知出来ぬが、心配無用。

我々独身にはまだ右手がある。スマホ片手に孤独な呟きを「スキ」ボタンで支え合えるのだ。


今年の恵方

2月3日(1966年)は、ロシアの無人宇宙船 「Luna 9」 が世界初の月面ソフトランディングを決めた日。

恵方巻きを食べる人も食べない人も、今夜は月の方角を見て、人類の進化と壮大な宇宙に思いを馳せてはいかがでしょう。


筆者について

空飛ぶ車や培養肉事業を前線で率いてました。今は独立して企業のオープンイノベーションや新規事業開発支援、データ解析のご依頼を承っております。

頂いたお金は異端な科学者とのシチズンサイエンス(市民科学)プロジェクトに活用します 。 主に未来学、科学、スタートアップ、イノベーション等について呟きます。


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