イエローストーンと細菌農家が世界タンパク質危機を救う(The Futurologist 2/7/19)
無名のスタートアップが、食品大手ダノンを含む投資家から33億円のシリーズA調達を完了した。
その名は「Sustainable Bioproducts」。
培養肉、植物由来肉、昆虫食などが牽引する代替タンパク質市場を狙う新興企業だ。
The Futurologistは、数十年後を見据えるアントレプレナーや科学者に届けるマガジンです。未来を予測する学問「未来学(futurology)」、グローバル課題、未来技術に関する最新情報をサクッと提供します。だって世界は、貴方の未来設計にかかってるから。
以下のカオスマップを見ても分かる通り、代替タンパク質市場は今急速な拡大を見せている。
(Image credit: Olivia Fox Cabane)
背景に存在するのは、発展途上国や新興国の人口が爆発的に増加する中で、タンパク質の奪い合いが発生する可能性に対する危機意識だ。
また、既存の畜産業は水と土地利用の観点から非常に非効率であることに加えて、動物愛護意識の向上も、このムーブメントを加速させている。
これだけ多種多様な競合が出揃う市場環境において、差別化は決して容易でない。
しかし、Sustainable Bioproductsは、極めてユニークな解決策を提案する。
キーワードは、「イエローストーン」だ。
イエローストーン国立公園と好極限性細菌
ご存知の通り、活火山地帯に属するイエローストーン国立公園は、アメリカ屈指の観光名所である。
イエローストーン国立公園に位置する間欠泉「グランド・プリズマティック・スプリング」は、誰もが一度は写真や映像で見たことがあるだろう。
緑から赤までを含む鮮明な色彩は、ミネラル豊富な水中に生息するバクテリアによるものだ。
そしてこれらのバクテリアの中には、「好極限性細菌」と呼ばれる特殊な微生物が存在する。
イエローストーン国立公園のような活火山地帯に特有の、高温などの極限条件下で生育する微生物である。
好極限性細菌の一部には、乾燥させることで油分や酵素を生産し、バイオ燃料を含む様々な産業利用が可能になる細菌も存在する。
前述のSustainable Bioproductsも当初は好極限性細菌を用いたバイオ燃料開発を進め、アメリカの環境保護庁やNASAから数千万円規模のグラントを受け取っていたが、紆余曲折を経て彼らがたどり着いたのは、好極限性細菌を用いたタンパク質食品の製造であった。
Business Insiderの取材によれば、Sustainable Bioproductsは好極限性細菌を量産し、パウダー状の食品に加工する独自技術を有する。
ビールの醸造に似たプロセスを用いるこの技術は、既存の畜産業と比べて大幅に水と土地の利用を抑制できる。
ヨーグルトに混ぜるなどの食べ方を想定しており、ダノンが投資したことも頷ける。
今回調達した33億円は、主にパイロットプラントの建設に充てられる予定で、市場投入までにそう時間はかからないという。
ビールの醸造に似たプロセスであれば、培養食肉などが抱えるスケーリングの問題も懸念は少ないのかもしれない。
20年後には、細菌農家、細菌料理専門店、細菌ソムリエが農業及び飲食業界を牽引している世界が待っているかもしれない。
筆者
空飛ぶ車や培養肉事業を前線で率いてました。今は独立して企業のオープンイノベーションや新規事業開発支援、データ解析のご依頼を承っております。頂いたお金は異端な科学者とのシチズンサイエンスプロジェクトに活用しています 。