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第18回 経営者、個人事業主になるということ

ここ数年「起業」や「独立」なんて言葉をよく耳にするようになりました。自分が起業したから余計目につくのかな?とも思ったりもしますがどうなんでしょう。いずれにせよ、自分の周りにはそんな人が多いのは事実です。
前回、開業までの時間について書きましたが、そこに踏み出す前の段階の人には知っておいて欲しいこともあります。

それは、もしあなたが今どこかで雇用されている立場で将来的に起業や独立を考えているならば、その道には少しだけ覚悟というものが必要ということです。一見華やかに見える独立開業。どんなイメージでしょうか?
「好きなこと」をして、「お金がたくさん」入って、「自由に時間」が使えて、「チヤホヤ」周りからされて、「夢」を叶えていく日々。そして幸せなまま人生を終える。
うまくいけばその通りかもしれませんが、もしそんなイメージを持っているならば、現実はそんなに簡単ではなさそうです。
まず「好きなこと」のこと。あなたが今プロのカメラマンであったとして、この仕事を気に入っている、もしくは写真が好きで写真を撮っている時間がとても幸せだとします。私はここからもう少し掘り下げて考えてみることをお勧めします。
・カメラマンという仕事のどこが気に入っているのか?
・写真を撮って納品までの間において、どの瞬間に快感を感じている自分がいるのか?
深く深く自分のことを知ろうとして、本当に「好き」なポイントが何なのか見つけてみてください。もしかするとその「好き!」は違う仕事や今の環境でも得られるかもしれません。中には「好きなのポイント」がすでに明確で、それだけをしたいから独立したいという人もいるかもしれません。その場合はその「だけ」で仕事が成り立つのか?はよく考えてみてください。商売はざっと、自らを整える(準備する)→お客様に知ってもらう→受注する→仕事をする→納品する→評価される。という流れです。一人ならばこの全てをする必要がありますし、分担するならばお金や人が必要になります。

次に「お金がたくさん」のこと。お金はうまくいけばきっと入ってくると思います。(残るとは限りませんが)
この分野は詳しく別で書きたいと思うので今回は大まかに書きますが、お金はまず始めるときに大きくかかることと、入って来るまでも基本時間がかかるということだけ知っておいたほうがいいと思います。
また「お金がたくさん」のイメージで意外と盲点なのは、生活費と事業費は違うということと、売上と純利益は違うということです。
まず生活費と事業費から。会社からの給料を得るために、給料から何か会社の備品を買ったりすることは基本ないですよね。しかし独立開業後は収入から収入を得るための出費をすることになります。簡単に言えば業務用のお金と個人の生活費の両方分の収入が必要になるということを覚えておいてください。つまり月30万円だった給料が独立して月50万円の収入になったとしても、むやみに喜べるものではないということです。
次に売上と純利益。ものすごくざっくりな話をすると、隣にいる人がもし「今年の年間売上が1億だよ」と言っても金持ちかどうかは別です。もしその1億を得るために9900万円使っていたらその人は100万しか残っていません。逆に売上が1,000万でも500万円しか使ってなければ500万円残っています。
だから後者の方がお金持ち……という訳でもありません。前者は将来のために投資をしている可能性もあります。
何が言いたいのかというと「お金がたくさん」というのは、人生のどのタイミングに、いくらお金があるかという目的によって違うので評価しづらいということです。お金が目的の独立開業ならばその目標は考えておいてもいいかもしれませんね。
他には独立すると基本固定収入はなくなり健康保険も全て自分で払います。銀行などもすぐには貸してくれず、ローンもクレジットカードも作ることが難しくなります。失業保険というものもありませんので、失敗しても国は助けてくれません。(破産はできます)
ちなみにやっとお金を借りられるようになっても、銀行にその融資分の生命保険に入るように言われたりもします。(←これ私。笑)
ここまでリスクを負ってようやくお金が入るようになってきても安心することはありません。なぜならば明日や1年後の収入は約束されていないのですから。

「自由に時間」のこと。労働者には基本国が定めた休みがあります。これが独立開業した途端労働者ではなくなり、休みは取ろうが取るまい(取れなかろう)が誰も関与しません。だから自由です。なので働くこと自体が幸せでない限り、なるべく少ない時間で大きく収入を得られるようにできれば最高だと思います。
ただ私のことを例にとると、どうしても能力が低いため特に開業したては休みを取ることはできませんでした。毎日夜中の2時3時まで会社のパソコンの前にいて帰宅。お風呂に浸かってそのまま寝てしまっていました。開業前から開業後の間の1年半くらいは大体3時間睡眠。友人と会ったりご飯に行くことも稀でした。独立開業は自由に時間が使えるというイメージは合っています。しかしそれは決して自由に遊べるということではなく、会社にも法律にも縛られず自己責任で時間配分ができるということです。

「チヤホヤ」のこと。独立開業するとある意味チヤホヤされます。何かあれば取引相手や銀行またはスタッフに怒られたり責められたり、たまにおねだりされたりします。営業マンがやって来ては「社長!」と言って何かを売ろうとしてくれます。つまり独立開業におけるチヤホヤとはその人がお金の決裁など誰かの損得に関わる責任者であるということです。
独立してそんなチヤホヤが来る前に、お金がなくても何者でなくても、あなたを普通に一人の人間として扱ってくれる家族や友人、そしてともに戦ってくれる仲間を多く作っておいた方がいいでしょう。それがきっと将来宝になると思います。

「夢」のこと。夢は人それぞれです。何を成し遂げたいのか、それには何が必要なのかを考えましょう。好きなことをすること、お金を稼いで何でも買えること、誰にも縛られず自由に時間を過ごすこと、人にチヤホヤされること、それら自体が夢である人もいるかもしれません。
どれも大正解です。他にもいろんな夢があるでしょう。独立や開業が何かの夢を叶えるための手段として有効であるならば、その道を考えるのは当然です。ただし夢を叶えるまでの道は、もしかすると楽しいばかりとは限らないことを知っておいてください。家族がいる人は、その夢への理解を得られないと精神的にもきついかもしれません。

今回、経営者や個人事業主になるということのいくつかの意味について書いてきました。
独立開業するということ。それはつまり自己責任の場所に立つということを意味します。そして同時にお客様からお金をいただくことへの責任、またもし従業員ができればその生活の責任を負うことでもあります。言い換えれば今まで「ごめんなさい」という一言で済んでいたことも、それだけでは済まなくなるかもしれないということです。
さあどうでしょう。経営者、個人事業主になるには少しだけ覚悟がいるということが伝わったでしょうか。独立後に「こんなリスクがあるなんて知らなかった!」なんてならないように、今のうちにいろんなフリーランスや経営者の人たちに話を聞いて回るのもいいかもしれませんね。

(あとがき)
今回のブログでは少しネガティブに感じられることも書きました。しかし私は開業してとても幸せだと感じています。そしてフェアでもあると思っています。「責任を取らなければならない」ということは裏を返せば「自分の責任を自分で取れる」ということです。つまり自分がダメならダメ。うまくいけばその分返って来る可能性があるということです。人によっては自分がどうしても達成したい、経験したいことのために独立することもあると思います。それも素晴らしいことです。目標に向かって努力できる人ならばきっと得るものがあると思います。
頑張りましょう!

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笠原徹|地方でクリエイティブな仕事をする|ハレノヒ
株式会社ハレノヒ代表取締役/2015年、築100年の古民家をリノベーションした写真館をオープン。地方写真館の再定義を行うことによって人とまちが豊かになる仕組みをつくろうとしています。その他セミナー講師や各種メディアにも出ています。