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第8回 なぜ写真館だったのか?(その1・お客様は誰?BtoBtoCとBtoC)

そもそも「スタジオを作ろう」と思った私が、なぜ「撮影スタジオ」ではなく「写真館」をつくることなったのか?今回はその経緯をお話ししたいと思います。

前回のプレゼンテーションの時点では、明確に「写真館を作ります」とは言っていません。
実は写真館になっていくのは古民家の活用者として決定後、まあまあ経ってからになります。その証拠にいまでも店名は「ハレノヒ写真館」ではなく、「ハレノヒ柳町フォトスタジオ」です。(名前を変えなかったのは、それはそれで理由があるのですがまたの機会に)
スタジオがない「弱み」を持っていた自分が、それを克服するため古民家リノベーションプロジェクトに応募しスタジオをつくることになりました。
「写真で人生を豊かにする」そんな理念を掲げたものの、そこで行う具体的な事業についてはまだぼやっとしていました。
家族やウエディングを撮ったり、商品撮影をしたり……雨風をしのげる撮影場所があるという安心や、「スタジオ持ってます」とクライアントやお客様に言いたいだけの自分。
ただ私の頭の中には、なんとなく次のような意識はずっとありました。
『自分の今までの経験が活かしながら、BtoBtoCではなくBtoCで事業がしたい』
ちなみにBtoBとはBusiness to  Businessの略で、いわゆるお客さんが企業の仕事です。例えばカメラマンという職業の場合、広告撮影などの分野です。
BtoBtoCはエンドユーザー相手の企業さんの仕事を手伝う仕事で、会場と提携してウエディングの撮影をする会社や個人はこれに当てはまると思われます。

そしてBtoCはBusiness to Consumerの略で、エンドユーザーがお客さんで直接受注しサービスを行います。(マーケティングのプロではないので理解が間違っているかもしれませんが)
難しそうに書いてますが、要は「下請けではなく、お客様と直接繋がって仕事がしたい」ということです。
それには理由が幾つかあります。私は当時ウエディングをメインに撮影をしていました。被写体は新郎新婦やゲストたちです。しかし「お客様は誰か?」を問われるとどうなるでしょう?もちろん新郎新婦はお客様なのですが、下請けの場合ビジネス上のお客様は結婚式場だったり写真館だったりします。

下請けのデメリットを幾つか上げてみました。
・マージンがあるため直接受注より粗利が少ない
・お客様から見て「会場のカメラマンさん」という認識になり、お客様と繋がりにくい
・現場の判断で良かれと思っても、なんでもお伺いと立ててからでないと行動できない
・元請けのスタッフという体なので、キャラクターを出せない
・元請けに理不尽な扱いを受けることがある(いろいろあります笑)
・エンドユーザーの利益と、ビジネス上のお客様である企業の利益が悲しくも相反した場合、企業を優先しなければいけない場面がある
などでしょうか。

逆にメリットもあります。
・信頼を得られれば自分で営業せずに定期的に仕事が来る
・仮に何か大きなトラブルが発生しても、元請けに比べれば損害は少ない。(そこからの仕事は来なくなりますが)
・大口の取引ができれば、全体の売上高が大きい

ではBtoCのデメリットはというと
・自分で全て集客ややりとりをしなければならない
・トラブル時は100%責任を負うメリットは
・単価が高くなる
・お客様に直接評価してもらえる
・お客様の利益に集中出来る
・自分で自分の責任を負える

ざっくりとあげるとこのような感じです。どちらもメリットとデメリットがあり、どちらが良いとか悪いとかではありません。
ではなぜBtoCがしたいと思ったかというと、それまで自分が経験したウエディング業界のマージンの高さ(中には50%どころか60%も現れたそうです)や、パートナーとは名ばかりな扱いの経験がトラウマになっていたのだと思います。
また、お客様にどんな人間が写真を撮るのか認識して欲しいという気持ちもありました。そして思ったことをストレートに言ってしまう自分の性格も。最近はとてもマシになりましたが、相手が取引先のお偉いさんでも関係ありません。
これは良いことのように聞こえますが、ビジネス上は結構深刻な問題です。
なぜなら極端に言うとBtoBの場合、100人中99人がYESでもその契約の権限を持つ1人がNOを言えば取引は成立しません。
逆に100人中99人がNOであっても、権限を持つ1人がYESならば取引が成立します。つまり、キーマンの1人に会社の運命が握られてしまうという不安定な状況ができてしまうのです。(メリットにもデメリットにもなりますが)そう、もしそのキーマンと自分のウマが合わなかったら……考えるだけでゾッとします。笑
その他、将来のBtoB契約を踏まえ、対等な関係を築くためにはBtoCの事業で顧客を持った状態が好ましいという考えと、上記のことも含むBtoBのリスクをBtoC事業で分散するという目的もありました。

このようにスタジオを持つ目的から始まった活動が、写真館をつくることになっていくにはBtoC事業がしたいという希望があったのです。
そして、もう一つこれとは別に理由があります。それはまた次回に。

(あとがき)
結婚式場のマージン。以前会社を一つ任されていた時の取引先とのマージンは50%でした。
その時自分が考えていたことは、
「式場ボロ儲けやん〜」
なぜならお客様に30万円で提示されている商品があったとして、その半分15万円はお客様をこちらに紹介しただけの式場が何のコストもなく丸儲け。残りの15万円で写真屋はカメラマン代やアルバム代、作業人件費などを払って残るのはほんの数万円という状態。
「何だか理不尽だなー」とは、今は思っていません。
自分が経営者になって解ったのは、お店を作り「集客することの大変さ」です。
式場さんは何百、何千、何億とお金をかけて会場を作り、人を雇い、広告宣伝をしてお客様と契約をしています。なので、そんな努力をして契約したお客様を、他の会社に何の見返りもなく簡単には紹介できないのも理解できます。
お金の問題だけではありません。信頼して契約してもらったお客様の大切な写真を任せるのですから、しっかりとした仕事をしてもらいたいのです。だから時には風当たりもキツくなるでしょう。
このように写真館をつくる前、ウエディング業界に思っていた感覚と今の感覚では少し変わってきています。私が今考えるウエディング業界の問題は、おそらく経営(側)の問題です。消費者の永遠の欲求である「より良いものを、より安く」(例外を除いて)の部分はちゃんと認識しながらも、時にはそれを分けて考えたり、業界のことを立場を超えて多くの関係者で話す機会がもっとあって良いと思います。
数年前私が理事を務めるJWPA(一般社団法人日本ウエディングフォトグラファーズ協会)で「持ち込み問題を考える」というイベントも仕切らせていただきましたが、そのような切り口でも良いでしょう。どんな業種でも同じ。お客様も会社も働く人も、全員がWin-Winでハッピーになれると良いですね。

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笠原徹|地方でクリエイティブな仕事をする|ハレノヒ
株式会社ハレノヒ代表取締役/2015年、築100年の古民家をリノベーションした写真館をオープン。地方写真館の再定義を行うことによって人とまちが豊かになる仕組みをつくろうとしています。その他セミナー講師や各種メディアにも出ています。